ダイアル・オン
 なな
怠惰な休日&雪華ちゃん奮闘記
〜1番キャラ変わってねえか、こいつ〜



「奥さん」
「だ、駄目です。私には夫も子供も」
「そんなことは関係ない」
 バリバリ。
 モグモグ。
 ゴクン。
「で、でも」
「ずっと前から、あなたのことが……」
「ああ、私、どうしたら……」
 ゴクゴク。
 ふう。
「奥さん……」
 ぴっ。
「……」
「……」
「……」
 居間に妙な雰囲気が流れる。雪那と雪華はソファーに並んで座りながら、消えてしまったテレビの画面を見つめて硬直している。テレビを消してしまった瀬里奈は、テレビのリモコンを画面に向けたまま固まっていた。そのまま3人とも1分間固まって。
「昼間から何見てんのよ」
「テレビ」
「テレビです」
 雪那と雪華は声を揃えて瀬里奈の方に振り向く。本日は国民の休日というやつで、学校は休みだ。しかもそのまま土、日に流れ込むので、3連休となっている。そのため昼食と後片付けを終えた雪那は、軽い食べ物を用意してお茶を用意して、2人で並んでドラマを見ていた。ただし、内容がかなりあれだったわけだが。それを見かねた瀬里奈がテレビの電源を消した、という流れである。
「見てたのにいきなり消すとは、お前」
「そうですよ。楽しく見てたのに」
「ちょっ、あんなの昼間から見てなにが楽しいのよ!?」
「こう、ドロドロとした対人関係がこれからの社会の中で役に立つかと」
「万が一の場合に切り返し方として参考になるかと思いまして」
「はあ!?」
 着眼点が違うというかなんというか。瀬里奈もそうだが、この2人は一箇所に留まることを良しとしない生活をしていたため、日本に移住してからは驚きの連続である。瀬里奈は少し早めに来たし、友達に引きずりまわされたために大分慣れたものだが、雪那と雪華はまだまだ興味が引かれるものが多いのだろう。とりあえず、昼間にやっているドラマもその1つに該当したというわけだ。
「とりあえずあんなの見るな。参考にもならないから」
「ふーん。瀬里奈、お前そんな経験あるのか」
「無いに決まってんでしょうが……」
 何処の高校生が宅配に来ている青年と不倫関係に陥るというのか。そもそもまず、その場合は結婚していることが前提だ。……ま、まあ雪那となら結婚しててもいいかなーとか。
「おい」
「はいっ!」
 妄想中に話しかけられたため、いきなり反応した瀬里奈は背筋を伸ばして元気良く反応してしまう。雪那も驚いてしまい、出鼻をくじかれた感じだ。
「あ、いや」
「あ、ごめ」
「2人とも何してるんですか……」
 横目に見ていた雪華は呆れ顔で突っ込む。とりあえず、今から見直しても面白くも無いので、その場で各自解散となった。全員休日のため、只今宮崎家にいるのはこの3人だけである。綾乃は学校に部活連中のために出校。京子は椿と一緒に友達と出かけている。アティはリズの家に遊びに出かけているのでもういない。
 なんとなく気まずくなって、各自は部屋へと散会する。

こちら、雪那。
「あー」
 だるさが滲み出る。秋を迎える直前とはいえ、まだまだ季節的に暑い。窓を開けていても、扇風機を回さないと部屋の空気は蒸し暑いものだ。ちなみに他の部屋はクーラー完備だが、雪那は扇風機が好きと言ってつけなかった。妙なプライドである。
 とりあえず扇風機をポチッと起動させて風を浴びる。珍しくクラスメイトからなにも誘いが無く、師匠にも呼ばれていない。3連休を逆に持て余すとは思いもしなかったので。本人はだらだら過ごすしかないのだ。
(出かける、か? たまには当ても無く、ねえ?)
 思い立ったが吉日。雪那はとりあえず外に出ることにする。

 こちら、瀬里奈。
「どうしよっかな」
 予定が無い点では3人は同じだ。明日はクラスメイトと買い物に行く約束はしているものの、少なくとも今現在は非常に暇である。アティと一緒にリズのところに遊びに行けばそれなりに楽しめるだろうか。と、瀬里奈はここでふと思い出す。
(溜まっているビデオでも消化しよう。あまり一気に見すぎると疲れるからね、少しづつ少しづつ)
 部屋の中を散策し、見ていないビデオを取り出した。この間テレビで流れていた映画も含まれているため、全部見れば3時間以上は確実に潰せる。それを持って居間に移動することに。

 こちら、雪華。
「――」
 ばふっ、と音を立ててベッドに倒れこむ。頭の中の妄想が飛躍しすぎて落ち着かないのだ。瀬里奈の手前ああは言ったものの、実際は頭の中で妄想ばかり。当然、あてはめる関係は雪那と自分である。
「うー」
 唸りながら布団の上でなんども体をくねらせる。本人が安心して寝れないという理由で所持している抱き枕に抱きつき、そのままベッドの上をあっちに転がり、こっちに転がり。
 ちなみに雪華の部屋の中はかなり特殊だった。事情を聞いてもっと女の子らしくしたほうがいいと言った綾乃が中身を大幅に変革させており、壁は白にピンクのラインが入っている壁で、カーテンは勿論ピンク、置いてあるものはほとんどがピンクか赤で統一されていた。最初は雪華も戸惑っていたが慣れたもので、現在では(兄には見せたくないが)クマの人形とかも置いてある。描いたような少女趣味全開である。
(あー、兄さんに抱きつきたいー)
 普段では考えられないようなことを頭に思い浮かべながら今日も妄想。最近は雪華はこればかりで、他の男など視界にすら入っていない。雪那本人は妹としてしか見ていないため、それがますます雪華の妄想に拍車をかけることとなっていた。
(この抱き枕を兄さんだと思えばいいのよ! ああ……)
 現在雪華の頭の中はピンク色で雪那が(18禁のため削除)。昼間から随分と元気な妹様である。が、自分がおかしいことを自覚していないわけではない。ここ最近はどうにかしようと思い、街外れにある教会にいるシスターの下へ懺悔しに行っているのだ。しかし効果はあったのかと聞かれれば御覧の通り。その場で懺悔してあとは脳内から綺麗サッパリが現状であった。そして、異常に研ぎ澄まされた感覚は全てを超越する。

 トントントン……

 誰かが階段を降りていく音が耳に聞こえる。普通なら無視するところだが、雪華は違う。
(ににに兄さん!?)
 当然だが部屋の扉は閉められているので判断は出来るはずもない。部屋の外には足音しか聞こえておらず、声は聞こえていないので判断材料は無いに等しい。それにも関わらず雪華は断定する。あの足音は自分の兄だと。部屋の中に足音が完全に響かなくなるまで待ってから、雪華はゆっくりと部屋の扉を開けた。そして誰もいない廊下に出る。
(や、やっぱり、兄さんの臭いが残ってますね)
 ここまでくるとストーカーよりたちが悪い。しかも半分はヒトではないからなせる業なのか、ありえないことにも敏感に反応しすぎる。
(うーん、外に出るのでしょうか。そうですねえ、私も教会に行きましょうか……)
 兄が外に出ることを予想した雪華は、自分も外に出ることにする。尾行でもしたいところだが、あまりやりすぎると本人にばれるので、まずは日課になりつつある(効果は無いが)教会への懺悔を行いにいくことにした。外出をするために軽く準備をして、1階へ降りる。
「あ、雪華ちゃん、出るの?」
「は、はい。遅くはなりませんから」
「そう。行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
 居間でテレビにかぶりついていた瀬里奈に出ることを告げて、雪華も外に出る。外は天気が良く相変わらずからっとした暑さが充満している。まあ、じめじめしているよりは余程ましだ。
(では、教会に向かいますか)


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