ダイアル・オン
 ご
流動突発困惑日
〜可愛い彼女は鋭利的〜



(……で。なんでこうなる)
 雪那は自分が情けなくなって左手で顔を抑えて呻いた。学校に通い始めてから自分が追い詰められるとこうする癖がついたらしい。気にしていなかったが、これで自身の癖と判断できる。だがそんなことに意味は無い。現在の居場所は商店街。雪那は食材の買出しのためにスーパーに寄るつもりだった。そして彼の右腕には、両手でしっかりと掴まっている央香。
「んふふ、これってやっぱり恋人同士に見えるよね」
「……そうだな。見えるだろうな」
 充分である。これならば随分と仲のいいカップルに見えることだろう。雪那は断ろうとしたのだが、どうしても、と押し切られた。女の子の頼みには弱い男。
「それにしても、スーパーとかにもちゃんと買出しに行くんだ」
「食材関係とそれ関しての費用は一任されているんだ。一応食事係りだからさ」
 頭の中は悩み所が多すぎてどうにかなりそうだったが、それでも食事担当は変わらない。下手に手を抜けば綾乃が何を言うのか分かったものではないため、雪那はとりあえずこのままスーパーに寄る事にしたのだ。そこで買い物を終えれば荷物がある以上、央香も長くはいられないと踏んで。
 スーパーの中に入り、雪那が買い物籠を取ろうとすると、横から央香に取られてしまう。
「へへ、私が持つよー」
(まずい。流されている)
 本日3度目の顔に手を当てての呻き。央香が先にいってしまったため、仕方なく雪那も後を追うことにする。その後は仲良くお買い物タイム。
「偉いねー。ちゃんと選んでから買うんだ」
「……慣れすぎたのかな」
「いいと思うよ? そういう男は好き」
「はっきりと言ってくれるな……」
「ん♪」
 制服姿の男女2人がスーパーで買い物となるとそれなりに目立つ。雪那はクラスメイトに見られやしないだろうかと不安だったが、食材を選ぶとなるとそんなことは気にしていられなかった。食事係りのプライドが前面に出てしまい、厳選することを最優先したのである。央香は黙って嬉しそうな顔でそれを見ている。
「いいなあ……」
「ん? 央香、どうした?」
「あ、いや、なんでも」
 慌てて首と手を振る央香に雪那は頭に疑問符を浮かべるばかり。央香は照れたような顔をしていたが、雪那はあえて無視することにした。なんか突っ込むと戻れない気がしたからである。買うべきものを揃えたら、次はレジにて会計。最後はこのまま帰宅するのみ。
「なんかこうしてると新婚さんみたい」
「――」
 撃沈。
(それはまずいな)
 買い物袋と腕に掴まった央香のせいで、最早呻いても腕が自由にならない。だがこれ以上は帰宅意外にすることも無いので、さすがに央香と別れることにする。
「ああ、俺こっちだから、そろそろ」
「え? そうなんだ。うー、残念だな」
 渋々ながらも央香は腕から離れてくれた。
「明日もいい?」
「心臓に悪いんだけどなあ」
「付き合い始めみたいでいいじゃない」
「まだ付き合ってない」
「う、そうだけど」
 央香のほうもぎこちない笑い方になる。雪那に至ってはもう引きつっていた。
「私はいいって思うけど。雪那君はどうなわけ?」
「――。あー、その。時間が、欲しいかな」
 断れなかった。内心雪那は阿呆、と連発する。
「……そっか。ま、急がなくていいから。こっちは気持ち伝えたから待つだけだし」
「う、応」
「うん。じゃあまた明日。じゃあね」
 手を振って央香と別れる。完全に央香が視界から消えるまで、彼女が何度もこちらを振り向いたので、雪那も自然とその場に居続けて見送った。最後に手を振り終わってから帰宅する。歩き始めてから雪那はようやく気付いた。
「なにやってんだおい」
 すぐにでも帰れば良かったのにこれだ。再び重くなくなった右手を顔に当てて存分に呻く。断らなかったし今の行動はどう見ても相手に期待させるような行動だ。時間が欲しいと言ってこれでは、告白することを待ってくれというようなものである。
「やべえ。どんどん事態が悪化してる」
 呻きながらも、雪那は帰宅して食事を作ることにした。とりあえずは目の前の料理に集中しなくてはならない。手元が狂って指でも切ったら大事だ。

 家に帰宅して、央香は自分の部屋に入った。そのままお約束のごとく鞄をベッドの上に放り投げて、自身の体もベッドの上に投げるように倒れこむ。
(返事は延期かあ)
 残念だった。キス直前までいっても否定しなかったから、しどろもどろでも答えてくれると思っていたのに。
(んー、明日は大丈夫かな)
 とりあえず着替えることにする。スカートを脱ぐ。じゃらっ、と音がした。
(こっちからもう行こうかな。雪那君、意外と押しに弱そうだし)
 楽な格好に着替えて再びベッドの上に座る。それと同時に明日はどうしようか考え始める。放課後のほうが時間があっていいのだが、雪那は家で食事を作るために早めに帰宅する。そこをどうにか押さえられればいいのだが。
「あーあ」
 つい声に出してみる。彼の顔が頭から離れない。
(雪那君の○を○○○○したり○に○○○を○○○○たりしたいなあ)
 ベッドに倒れこみ、枕に顔を埋めて央香はそのまま寝てしまった。


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