ダイアル・オン ご 流動突発困惑日 〜可愛い彼女は鋭利的〜 そして舞台は昼休みへと移る。充分とはいえないが睡眠をとった雪那は、昼食を保健室で済ましてきてから教室に戻ってきた。と、中には誰もいない。 (全員出てるのか。珍しいこともあるもんだ) 好き好んで教室に居座る奴がいないだけの話しだ。雪那は窓際にある自分の席に座り、天気のいい本日の空を見上げた。雪那はとりあえずすることがなければ外を見て、空を見上げる。そうすると気分が落ち着く。 (いい天気だな……。師匠から言われて色々考えることはあるけど、しばらくは平穏に暮らせそうだ……) ここで雪那が言う平穏は戦闘行動についてのことである。そのため、日常生活で降りかかる面倒ごとや厄介ごとはまた別。どうせ巻き込まれるならいっそのことなんでもいいから来い、という構えで雪那は過ごすことにした。そしてこの考えは甘かったと、すぐに思い知らされることになる。 がらっ。 「ん?」 誰かが教室に入ってきたようなので、首を動かして確認する。すると、中に入ってきたのはショートヘアーの可愛い女の子。背は瀬里奈と同じくらいだろう。スタイルもよく、スカートから伸びる長い脚線美はたまらないものがある。 「斬濱(きりはま)さん?」 「あら。月代君1人?」 クラスメイトの斬濱(きりはま)央香(おうか)だった。外見が外見のため非常に男子にもてる、そんな女の子。ちなみに雪那はまだ詳しくは彼女のことを知らない。 「ああ、誰もいなくてね。静かなもんだ」 「そうね。誰もいないと教室ってこんなに静かなんだ」 央香は雪那の前の席に座る。2人で青空を見上げた。ゆっくりと時間が流れていく。 「こうしてるのも悪くない、かな」 「ん。ここは基本的に騒がしいからな」 廊下からは生徒達の話し声が聞こえてくる。教室には小さく響く程度なので、これはこれでBGMとしては良質だった。 「ね、月代君はさ」 「ん?」 ふと、あちら側から切り出される。 「同居してるヒトで好きな子はいないの?」 にやにやしながら聞いてくる。やはりこの年代の女の子は気にならないといえば嘘なのだろう。雪那はなんともいえない表情でそれに答えた。事情があると話が通っているとはいえ、これはやりづらい。 「いないな。帰るとそれどころじゃなくてさ……。どちらかといえば家族としてのほうが強い」 「ふーん。瀬里奈は前から知り合いみたいだけど」 「ああ。昔はろくな場所で過ごしてなくてな、そこから付き合いは長いよ。腐れ縁もいいとこ」 「ふふ、月代君って割り切った考え方するんだね」 「そうか?」 「うん。普通は大量の女の子と同居したらそうはいかないでしょ」 「……俺が普通じゃないような言い方だな」 「あはは、ごめんごめん」 なにげない会話で時間を潰していく。このような場面になると、雪那は改めて自分が平和にいることをよく実感する。何度味わってもこの感覚は好きなのだ。そこでこちらからも恋愛話しについて切り返してみることにする。 「えっと、斬濱さん?」 「央香でいいよ。こっちも呼び捨て。いい?」 「――、了解、央香、ならそっちは好きな奴とかいないのか?」 「私?」 央香は外を見ながら考えている。雪那も特に急いで返事を求めるわけではないので、肩肘をついて待つことにした。しばらくすると、央香がこちらを振り向いて誰かを告げてくる。 「雪那君、じゃあ駄目かな……」 「……は?」 予想を立てていたわけではない。ただ、自分がその対象とは思いもしなかったため、雪那は目をパチクリさせて唖然としてしまった。次に口から出た言葉は、 「あ、そうなんだ」 これである。女の気持ちを理解しない男、月代雪那。 「すっごい薄い反応。それってなんかへこむんですけど」 「い、いやあ、まあなあ。いきなり言われても」 「驚いて欲しかったわけでもないけどさ」 「うーん」 雪那がどうしようか迷っていると、央香は近づいてくる。そして、座ってる雪那の首に両手を回して絡みついた。 「? 央香?」 「嘘じゃないって、証明しようか」 央香はそのままゆっくりと体重を預けてくる。そのまま雪那に体を預け始めた。 (あ、女の子ってやっぱ柔らかい) 頭の中でこんなことばかり雪那が考えていると、央香は全身を預けて座ってる雪那に抱きついた。央香は胸も結構なサイズがあり、押し付けられてる雪那はかなり役得である。そのまま濡れた瞳で見つめてくる。 「お、央香、これ、誰かに見られたらまずい」 「誰もいないでしょ……」 抱きついたまま小声で話す央香は滅茶苦茶可愛い。大抵の男子であればこれで完全にKOされることだろう。雪那は鍛錬された(何のだ)精神力を持ってしてどうにか踏みとどまる。が、それも長くは続かなく、とろけた表情で見つめる央香と目を合わせてるうちに雰囲気に呑まれてきた。雪那もなんか表情が変わり、とろんとした表情をしている。 「……いい?」 雪那は何も答えない。いや、答える余裕がなかった。それを肯定とみなしたのだろう、央香は雪那の両頬に手を当てて、そのまま自分の唇を近づけていく。二人がキスしようとする瞬間。 「およー」 『!!!!』 廊下から誰かの声が響いてきた。一瞬で2人は現実へと引きずり戻される。雪那は慌てたままでどうにか央香を引き剥がそうとしたが、抱きついてる央香はバランスを崩しそうになって雪那を掴み、どちらも慌てるだけの状況になる。 「お、おい」 「あ、うん、ごめん」 どうにかして央香を体から引き離し。 がらっ。 「お? 2人しかいないの?」 本当に危機一髪のタイミングで教室にリズが入ってくる。2人は顔を真っ赤にして距離を取っており、端から見たら怪しいことこの上ない。だがリズは別段気にしている様子はなかった。それおチャンスと見た雪那は、どうにかしてリズと話しこんで状況回避に努める。 「お、応。もうそろそろ次の授業の準備かな」 「え、ええ、そうね。移動教室だから、少し早めに準備しないと」 「そうだっけ。ねー雪那、一緒に行こうよ」 「あ、ああ」 リズに誘われて教室から出ることにする。これは変に疑いをかけられずに済むチャンスでもあったため、雪那はぎこちないながらも即答した。移動教室の準備をして、リズのあとをついて教室を後にしようとする。出る瞬間に央香のほうに目を向けると。彼女は、両手を合わせてウインクして見せた。 |