ダイアル・オン
 ご
流動突発困惑日
〜可愛い彼女は鋭利的〜



とんとん。
「んー……」
 ゆさゆさ。
「むにゃ」
 眠い目をこすって瀬里奈は起きる。光が差し込んだ風景には。
「起きろ。もう10時過ぎだぞ」
 雪那がいた。
「じゅう、じ?」
 しばし鈍い頭を回転させて状況を把握する。起きた。10時。雪那。寝てる。え?
「わわ、雪那!?」
「おはよう」
 にっこりと微笑んで雪那が挨拶をする。どうやら寝ていたようだ。いつ寝たかも覚えていない。帰宅するのを待っていたのに、逆に雪那に起こされてしまった。
「え、あ、お、おはよう」
「遅刻は決定だ。仲良く行くとしようぜ」
 時計に目をやると、すでに10時を過ぎている。家の誰かは起こしてくれなかったのだろうか。と、瀬里奈は目の前のテーブルに目をやる。すると、綾乃の筆跡で書かれたメモ用紙があった。内容は――
『雪那の帰りを待て。そしたら一緒に登校して来い。事情はうまく誤魔化しておく』
 だそうだ。綾乃もたまにはいいことをするものである。起きた瀬里奈はとりあえず支度をしようとして、洗面台の前に来た。雪那と並んで歯磨きを始める。
「居間で待ってなくてもよかったのに」
 口に歯ブラシを入れているため聞き取りにくい。
「んー」
 瀬里奈も軽い返事でそれを済ませ、仲良く同時に口に水を含んでゆすいで吐き出した。洗顔も済ませ、朝食を食べることにする。住人の誰かが気を利かせてくれたのだろう、ジャムが塗られた食パンがすでに用意してあった。熱めのコーヒーを淹れて飲む。
「せふなふぁあ」
「食べてから話せ」
「ん、んくっ、雪那さ、結局どうなったわけ?」
「色々。話すと、というか話してもどうにもならないからそこは、な。けどサッパリはしたよ」
 話す雪那は顔やら腕やら手に傷のあとが見える。どうやら一勝負でもしたらしい。結果として本人は物凄く満足そうな顔をしているので、瀬里奈は深く言及しない事にした。
 食事を終えればあとは早く、互いに着替えて玄関に立つ。外に出て戸締りを確認。歩いてゆっくりと学校に向かった。足取りは軽く、2人とも表情は重くはない。
「瀬里奈」
「なに」
「ありがとう」
「……」
 瀬里奈は自分の頬が熱くなるのを感じて、少し早足で学校に向かった。

 教室に到着すると、授業の真っ最中である。たまに事情ありで遅れることが2人はあるため、クラスメイトは特に追求もしないしそんなものかと割り切っている。1人を除いては。
「おい」
 授業中でも容赦なく話しかけてくる、後ろの席に座っている男。雪那とは親しい友人になった男だ。席も近いから良く話す。
「なんだ田中」
 教員にばれないようにタイミングを見計らって返事を返した。ここから小声で話が続く。
「今日は何で遅れたんだ」
「秘密」
「澤井さんと2人でか、この野郎。しかし顔の傷を見る限りでは喧嘩でもしたのか?」
 どうやら雪那の顔の傷はそのように見えるらしい。とりあえずは言い訳をしなければならない。
「そんなわけねえだろ。もし喧嘩したら俺は今頃墓の下だ」
「……すごい表現だな」
 言い訳はそれくらいにして雪那は寝ることにした。裟璃奈との修行のせいで一睡もしていないのだから、眠くて当然だった。雪那は教科書を盾にしたまま、闇の中へと落ちる――


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