ダイアル・オン
 いち 
創世平和ゆらゆら伝記
〜ここから日常どんとこい〜


注:このお話は前作『狂界線』の後のへーわな生活を描いたものです。
見てない人は前作から見たほうが楽しめると思います。
次回作を作るまで終了次期見えずのままどうなるかも不明。話し一つは短く、結果的に多くでのらりくらりと行きます。ネタの注文とかあったらやってみる……かも。


 
まどろみの中で何かを見た。いつか見た青い空。大好きな空。その下で、自分と仲間達でピクニックをしている。子供っぽいかとも思ったが、こんなこと自体滅多にありえないのだ。今日くらいはこんなことをして過ごすのもいいだろう。笑顔で溢れているこの光景。見渡す限りに緑色の美しい草原。こんな場所があったかどうかが問題なのではない。ここで皆とこうしていることこそが重要なのだ。
「ここらへんでいいよな」
「ああ。さて、荷物を降ろして遊ぶとしようぜ」
 友がいる。隣で笑ってくれる友。
「ね、あそこに大きい木があるよ。あっちまで二人で散歩しない?」
「いいじゃねえか。行って来いよ、邪魔しないから」
「悪いな。じゃあ荷物は任せるよ」
 恋人がいる。隣で誰よりも愛しく微笑んでくれている彼女が。

 この瞬間は、何よりも幸せだ。

「じゃあいこうか」
 彼女と手を繋いだ。彼女は少し驚いた表情を見せたが、すぐに照れたような、嬉しいような表情で手を握り返してきた。互いに体を寄せ合って、静かな草原を二人で歩く。暖かい彼女の体は温もりをくれる。自分は彼女に温もりを与えているだろうか。
「……」
「……」
 互いに少し照れながら、ゆっくりと足を進めていった。途中まで歩くと、ふと彼女が足を止める。
「?」
 そのまま顔を真っ赤にしながら、彼女は目を閉じて、自分のほうに顔を向けてきた。キスをして欲しいときの、彼女の顔だ。こちらも照れた表情のまま、徐々に唇を近づけていく。

 が。

 こちらも目を閉じていたのだが、途中で妙な違和感に襲われて目を開く。すると、目の前にいた彼女の顔が別の人物の顔に切り替わっていた。

「へえ、キスする時ってそんな顔してるんだー」

「おあああああああああっ!」
 勢い良くベッドから跳ね起きる。今見た光景が本物かどうか確認するために、素早く首を左右に振った。
「はあ、はあ、はあ」
 とりあえず現状確認。場所は部屋の中。草原ではない。間違いなく自分の部屋の中である。どうやら先程までの光景は夢であったらしい。よくよく考えれば、彼女が目の前にいるはずも無い。そのまま心を落ち着かせて、とりあえず手をベッドに――

 ふに。

「……あ?」
 なにか柔らかい感触が手に伝わる。確かこの感覚には覚えがある。男では絶対にありえない感覚だった。女の子。恐る恐る掛けてあった布団をめくる。すると、中には――
「起きてるー? 入るよー」
「あ、ちょっと待て!」
 扉の向こうから掛けられた声に慌てる。しかし時既に遅し。鍵のかかってない扉は無常にも簡単に開かれ、部屋の中を嫌というほど露(あらわ)にしてくれた。部屋の中に入り込んできた少女は、目の前に広がった光景を前に絶句している。
 どうにか言い訳をしなければならないと思ってはいる。だが思考回路はここぞというときにうまく働いてくれない。むしろ鈍くなるのだ。汗だけがだらだらと流れるなか、絶句したままの目の前の少女は、何とか口を開こうとしていた。しかし、あちらもうまく思考回路が働いていないのだろう、口を半分開いたまま固まっている。
「……」
「……」
 簡単に説明する。部屋だ。少年の部屋。そこにいつものように朝、少女が起こしに来た。すると少年は既に起きていた。そして、上半身を起こした状態で、片手は隣に寝ていたもう一人の少女の胸を掴んでいる。隣で寝ている少女はまだ起きてはいない。固まっている要素はそれである。
「……うーん」
 寝ていたもう一人の少女が目を覚ます。まだ半分寝ぼけているのだろう、そのまま少年に向かって手を伸ばした。
「兄さん……」
「!」
 そのまま少年の腰に手を回して抱きついた。抱きつかれた少年は驚いた表情でいるが、引き剥がそうとはしない。と、入り口にいた少女はようやく口を開く。
「あ」
「おい、ちょっ」
「アホーーーーーーーーーーっ!!!」
 バキイッ!
 拳がめり込み、少年は再び暗闇の中へと意識を落とした――


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