第196話 ”1”
この回に目につくのは、残念ながら、中身の薄さであろうか。
まずはなんと言っても謎の「ツメゲリ部隊」である。はっきり言って、存在意義が不明。
わざわざ勿体ぶって出しているわりに、ストーリー上まるで重要性がなく、アラバスタ編を通して、ここ以外では台詞の端にすら登場しない。
それだけではない。チャカの戦いにしろ、強引に入れた回想シーンにしろ、削れる部分ばかりであり、
最終的にはMr1の捨て台詞と「ビビ!」と叫んで登場する謎の"足"以外、全部省略出来るのだ。
連載当時は200話でルフィ登場、と、美しく決めるために話数調整でひっぱっているのかと考えたものだが、実際はそれですらなかった。 "豪水"の設定が後で必要なわけでもなかった。全くもって謎の回である。
第197話 ”統率者達”
チャカ、コーザ、と次々に倒れて行き、盛りあがるドラマ。一瞬の希望から絶望へと転化させるドラマ運びはさすがである。
また、演出面でも見るべき点が多く、まずはP30のコーザの目の位置がだんだん上から下へと下りて行く
(3コマ目と5コマ目の構成が絶妙。アングルが逆のケースを想像し、比べれば分かる)のが、
コーザの呼吸がだんだん落ち付いて、頭が冷静になっていくのを見事に表現している点。
それにP39・3コマ目の一コマだけでチャカとコーザの過去を描写し、チャカのキャラ立てを行うことで、
彼の自己犠牲に対する感動を増幅させている点。などがある。
第198話 ”午後四時十五分”
この回の秀逸は、なんといっても「サラッ…」のシーン。
読者に対し、最大限の絶望を与える「お前に国は救えない」と同時に、吹き出しと擬音を完全に排して効果線も最低限に抑える。
こうすることで、画面に静けさを生み、あたかもスローモーションのような効果を持たせている。
ここまでほぼ一貫して画面に「ゴオオオオ」か「ワアアアア」を入れ込んでいるだけに、
それを突然なくすギャップは大きく、効果を高めている。
またそれに先立ち、冒頭コーザが撃たれて倒れるシーンでも静寂の画面にしているのも注目。
この演出により、静寂=絶望のイメージを一貫して読者に与えている。
そして、絶望(=静寂)が究極に達した所で、それと対になる騒音(=希望)が再び画面に挿入されて来る。
この回最も巨大な効果音と台詞と大量の効果線を連れて、ルフィが叫び、静寂を打ち破る。
まさに、見事なまでの対比なのである。この一貫した対比の演出が、ストーリーを最大限に盛り上げている。
また、それを支えるだけの尾田氏の画力もまた、克目すべき点である。
「ゴオッ」と飛んでくるルフィの腕に筋肉の盛りあがりまでしっかり書き込み、力が入っている(緊張=(これも静寂=緩和と対になる))
様子を描写することで、最後の見開きの爆発的叫びをもスムーズに読者の耳に届かせている。
これも注目すべき演出技法と言えよう。
第199話 ”HOPE!!”
かつて、クロコダイルに手も足も出なかった記憶。ツメゲリ部隊もチャカも、全く太刀打ち出来なかった前話、前前話。
これらを無視するかのような、今回の、反撃開始を期待させる演出(ビビへの励まし、仲間の集結、「負けねえさ」の宣言)。
本来ならこの演出で、素直にルフィの逆襲を期待していいのだが、
ここまでのクロコダイルの圧倒的強さを見せられているだけに、読む側に不安が残る。
それゆえに、見開きでクロコダイルを殴りつけるルフィの姿が読者に与える衝撃は普段以上である。
先の読めるパターン的お約束カタルシスではない、先の見えないドキドキ感。
読者はひたすら固唾を飲んでルフィの攻撃ラッシュを身守り、そして最後に謎が解けて、
一気に勝利の期待を抱くことへの安心を得て、快哉を叫ぶ。まるで、格闘技の試合会場にいるかのような、緊張感と臨場感。
また、この名場面を彩る新技・ゴムゴムの丸鋸も、ボーガンやバズーカのような違和感もなく、
直線と曲線の入り混じって、画面に力とともに美を形作っている。
見開き殴りの次のページの1コマ目の、止め絵なども空間構成の妙を感じる。
まさに尾田先生のテンションの高さを感じる、名エピソードと言えよう。
第200話 ”水ルフィ”
記念すべき200話。100話のときには「伝説は始まった」と、カッコ良く決めているので、
きっと200話目にもストーリーの節目が来るだろうと予想されていたが、逆にそれをあざ笑うかのような題名である。
というより、これは明らかにワザとである。
第100話で一区切りとし、カッコよく決めたのは尾田先生の演出ではあるが、それ故に縛られるようなことはしない。
ここで無理に200話にいいシーンを持って来るためにストーリーの流れをおかしくしたりはしない。
もちろん100話ごとに綺麗にまとまればそれに越したことはないが、必要以上に作品の縛りはかけない。
変な技術論にこだわらず、作品の面白さを再優先する。図らずも尾田先生の決意を表明する回となったわけである。
また邪推だが、ネット上等で加熱するワンピへのあらぬ期待
(この場合で言えば、200話で区切りが来るに違いないとの予想)に対する、尾田先生の反発だったのではないか。
作品は作者のものであり、読者のものではない。読者が勝手に枠に嵌めて期待するのはいいが、それに拘束される気は毛頭ない。
そんな意志を、暗に示したのではないかとも、思えるのだ。
そんな中にも、"水漏れ"のシーンで漏れている部分がクロコダイルに貫かれた傷口の部分であるなど、
いつも通りの細かな演出技法をおろそかにもしていないのも注目である。
第201話 ”ニコ・ロビン”
現時点に至るまで、全編通してこの回ほどオールサンデーが血相を変えているシーンはない。
それほどの場面にも関わらず、結局何故オールサンデーが焦っていたか、についての直接的な説明はない。
おそらく、クロコダイルが来るより先に真の歴史の本文を読み、逃げるつもりだったのだと思われるが、
完全に読者の読解力に任せている。
話の勢いという意味では、ダラダラそれを説明するのもどうかと思うが、
後述するように、歴史の本文のエピソードが、既に話の勢いを削いでいるのだから、
多少オールサンデーの表情や仕草(例えばクロコダイルが入ってきた瞬間に「…!!!」と台詞を叫ばせるだけでも)で
理由を分かりやすくしても良かったのではなかろうか。どうも、浮いている気がしてならない。
また、たしぎの首に剣を突き立てるシーンがあるが、
ここまでしておいて次話では足が折れているだけであり、肩透かしもいいとこである。
せめて片目潰し、それでなければ両肩に突き刺すくらいして欲しかった。
今回のこのシーンと、次回のたしぎの足を折るシーンが、どうも繋がっていない。
オールサンデーをそこまで悪役に書きたくなかったというのであれば、
今回の描写をここまでしなければ(刀を奪うくらいまでにしておけば)良かったのではないかと思う。
少々不満の残る回である。
第202話 ”王家の墓”
Mr4、2、1、と、仲間達の力で倒し、ついにクライマックスのルフィ対クロコダイル。
ここでようやく長きにわたる戦いに決着がつく。そう期待したのも束の間。なんと、またもルフィが負けてしまった。
話が勢いに乗っているのに任せず、まだ決着を伸ばそうという。さすがに間延び感は否めない。
間延び感をさらに高めているのは、今回、次回と出る歴史の本文(ポーネグリフ)のエピソードである。
確かにアラバスタ編以降、ロビン仲間入りに繋げるためにはこのエピソードが必要なのは分かるが、
プルトンは「軍事力」としてずっと伏線が張られていたからともかく、ポーネグリフは、ここにきて突然出て来たと言ってもいいネタである。
ポーネグリフにプルトンのありかが書いてある、という話も203話でようやく出てくるだけで、伏線が全く無かった。
長いアラバスタ編の話の過程では、張られて来た伏線が一つ、また一つと判明し、それぞれが綺麗に結びあって
一つの結末に向けて綺麗にまとめ上げられて来た。
その終盤に来ての新要素は、今までが綺麗に構成されているが故に、なんとも唐突で、
ここのポーネグリフのエピソードが、折角美しく積み上げられてきたピラミッドを、汚してしまっているように思う。
ロビンとクロコダイルの関係などの設定を引っ張りたかったが故とは思うが、
出来ればもう少し先から伏線を張ることはできなかったのだろうか。
第203話 ”ワニっぽい”
私がアラバスタ編の名エピソードを上げるとするなら、ベスト3に挙げるであろううちの一つ。
ストーリー的にも一つの大きな山場であるが、それ以上に大きなポイントであると考える山場が、ここにある。
バトルの質の変化である。
ワンピースという作品における面白さの核となっているのは、
各キャラクターの生き生きとした日常会話、緻密にはりめぐらされた伏線、大海賊時代という世界観、
時に泣かせるドラマ、そして大胆な構図を駆使した力強い作画。このあたりと言えるだろう。
逆に絶対ここに挙げることができないのは、「バトルの面白さ」である。
はっきり言って、ワンピにおけるバトルはあまり面白くないものが多い。
一般の作品と比べて劣っているとは言わないまでも、特に優れているとは言えない。
確かに本解説においてバトルメインの話を褒めている部分は多々あるが、
それらはドラマとしての面白さ、敵との会話・やりとりの面白さ、それに絵としての力強さ・美しさを褒めていることが殆どであり、
決してバトルそのものが面白いわけではない。
そんな中、この第203話では
ミスオールサンデーが初出時はどう考えても大して戦闘では役に立たないと思われたハナハナの能力で、クロコダイルをピンチに陥れる。
知恵と駆け引きで力の差を埋める、能力者同士の対決の面白さを見せつけてくれているのである。
どちらが強いのか実感の湧かない強者同士の殴り合い(ルフィVSアーロン、サンジVSボンクレーなど)よりも、
こういう知恵比べ的な要素を前面に押し出した方が面白い。
そういう点で、本話におけるバトルは、アラバスタ編におけるエピソードの中でも秀逸だと感じるのである。
第204話 ”RED”
のびのびになっていたルフィ VS クロコダイルの最終決戦。
ルフィの力強さ、それに「血でも砂は固まるだろ!」の、前話で解説したような知恵を生かしたバトルの面白さが前面に押し出され、
否応なしに展開を盛りあげている。
第205話 ”砂砂団秘密基地”
ここにきて突如登場するMr7ペア。大ピンチの状況を大きく盛り上げるゲストとして、大いに役に立っている。
前述のポーネグリフの所では「ここにきて突然の要素」はダメだと書いたが、Mr7ペアについては
@Mr3を出した後からMr4を出す等の前例がある
AMr1が「当時のMr7…」という、Mr7という存在を読者の潜在意識に残す台詞を吐いている
により、いわば"伏線の一部"と言え、唐突感はあまりない。
それ故に存在を自然に受け入れられるわけである。
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