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幻獣。 どこからともなく現れ破壊の限りを尽くし、またどこへともなく消えてゆくもの。 速水厚志が生まれたときにはもうこの人類の天敵が姿を現して四十年近くも経っていたから、 彼には幻獣のいない世界など想像もできなかった。もっとも少し前までは 世界に陰を落とす暗雲ではあっても実感を伴う災厄ではなかったわけだが、 大陸を覆い尽くして彼の住むこの小さな島国にまで浸食を始めた幻獣は、 一年前ついに国の根幹を揺るがすほどの打撃を及ぼすに至った。 上陸した幻獣の大群を生物兵器を使って押し返しはしたものの、 圧倒的な戦力差に潰滅的な被害を被り、自衛軍はそのまま機能不全に陥った。 その穴が埋められないとわかったとき、急な展開が待っていた。 様々な法改正の後に、学兵の徴用が決定されてしまったのだった。否応もなかった。 もちろん有力な家の連中はそれこそ手を尽くして徴兵逃れをしたが、 あいにく彼にはそんな選択肢は残されていなかった。 そうして彼はいま防衛の要、遙か遠方の熊本に向かっている。生き残る確率の少しでも高い 戦車兵となるために。 それぐらいの計算はできた。誰でもむざむざ殺されるような目には遭いたくないのだ。 |