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福島民友新聞社社説
 核燃料サイクル機構(核燃機構)を相手取り、岐阜県の市民団体「放射能のゴミはいらない!市民ネット・岐阜」代表が「核のごみ処分地の選定に関する文書の公開」を求めて名古屋地裁に提訴した。
 
 訴状などによると、あらましの経緯はこうだ。
 
 核燃機構の前身である旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃)が、一九八六年から八八年にかけて実施した高レベル放射性廃棄物処分地(核のごみ捨て場)選定調査で、本県をはじめ北海道から鹿児島まで全国で計十九道府県の合わせて五十数カ所を「候補地」とする報告書をまとめていたことが分かった。
 
 その報告書の存在を知った市民団体が二〇〇一年四月に内容の公開を請求したところ、それに応じて公開されたのは約一年半後の昨年九月。しかも内容の多くが空白だった。
 
 核燃機構は、高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故にまつわる情報隠しなど旧動燃の不祥事の教訓を踏まえて「研究開発成果などは原則として公開」とする独自の情報公開指針をつくっていた。
 
 ところが、外部の有識者で構成する情報公開委員会が「選定地の詳細な地名などは指針が定めた『非公開情報』にあたる」としたのを受け、公開すべき資料からそれを「削除」する作業をしたという。
 
 そうやって削除されたのは選定地の市町村名のほか山や河川、公園の名称や地図、温泉や鉱泉の一覧表などだった。核燃機構はその作業に一年半という期間をかけたうえ、空白だらけの資料を公開した。
 
 公開を請求した側からみれば、請求から一方的に一年半も待たされたうえ、その間に、核燃機構側はせっせと情報を削除し、空白だらけにしてから公開したことになる。
 
 そこで市民団体側は、昨年十月から施行された独立行政法人情報公開法を根拠に、核燃機構に対し「空白にされた情報」の公開を請求。しかし機構側は昨年十二月「地権者ら関係者と核燃機構の信頼を損ない、事業の適正な遂行に支障が出る」との理由で公開に応じなかった。
 
 それで提訴、となったわけだが、核燃機構の態度は理解しがたい、という印象が否めない。こんな対応をされたのでは、だれだって訴訟を起こしたくなるのではないか。
 
 そもそも、高レベル放射性廃棄物つまり「核のごみ」は、原子力エネルギーに頼っている限り、必ず発生する。したがってその処分地つまり「核のごみ捨て場」は、どこかには必ず必要になる。
 
 しかも、この問題は、すでに使用済み核燃料などがぼう大にたまっている現状では、いますぐ「脱原発」に踏み切っても解決しない。
 
 べつの言い方をすれば、原子力に賛成だろうが反対だろうが、国民みんなで考え、知恵を出し合い、自由で責任ある議論を通じて合意をつくらなければ絶対に解決しない。そして、解決をめざすための方法は、情報を共有した国民的な議論と合意、これしかないのである。
 
 「情報隠し」というしかない核燃機構の対応は、その国民的な議論の前提を否定するようなもので、問題の解決を妨げている、と言われても仕方がないのではないか。
 
 核燃機構にとって、高レベル放射性廃棄物の処分地を探すのはいわば本業の一つである。したがって、その候補地を同機構の立場で選定する作業は、隠さなければならないような悪いことでも何でもない。
 
 なぜ隠すのか。隠すほうが「核燃機構の信頼を損ない、事業の適正な遂行に支障が出る」のではないか。それこそがあの「もんじゅ」の情報隠しの教訓ではなかったか。
 
 「原発トラブル隠し」とも共通するこの「隠ぺい体質」こそ、原子力開発を国民から遠ざけ「事業の適正な遂行」を妨げている根本原因なのだと気付くべきなのは、核燃機構だけではない。
◆2月19日付社説  核のごみ処分地/これも「情報隠し」の一種か