2001年度芹香様御生誕SS。
これはあの日・ザ・秘話と微妙に繋がってる続編だったりします。
出来ればそちらを先に読まれることをおすすめします。

では。

……いきます。



秘話、そしてプレゼント




みなさんこんにちは。
来栖川芹香です。
今年もこの季節がやってきました。

今日は12月20日。

そう、明日は私の誕生日です。





………というわけで……。

「嫌よ、姉さん」

綾香、私はまだ何も言ってませんよ?

「どうせ今年もまた私に影武者やれ、とか言うんでしょ。絶対嫌っ!!」
「………」

くすん。
まあいいです。
今年はごく内輪のパーティーにしてもらいましたので、外部からはほとんど呼びません。
呼ぶのは来栖川の人間と、後は私の個人的な友人。

そして………浩之さんだけ。

頬が自然と赤くなるのを感じます。
浩之さん……お祝いしてくれるでしょうか…。

「ふふっ、姉さん嬉しそうね。顔真っ赤よ。……良かったね」

綾香は優しい笑顔で私を見てくれてます。
はい…本当に嬉しいです。

だけど、ちょっぴり残念だったりもします。
浩之さんが来て下さるのですから警備員にクスリを盛る必要もありませんし、
綾香を影武者にして逃げ出す必要もありませんから。
特に今回は綾香が身も心も私になるように、立派な呪法を用意していたのですが…。

「待たんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

キィィィィン…

綾香の大声が耳に響きました。
クラクラします。
綾香、だめですよ。

「………」
「めっ、じゃないでしょっ!! やっぱりそんなこと考えてたの姉さんはっ!!」

あ、心配しなくていいですよ?
ちゃんとセバスチャンにもアレを盛る予定でしたから。

「そんな心配してないッ!! 大体アレって何っ!!!!?」
「まず仙命樹を煎じてですね…」
だから何でセリオが組成を知ってるのぉぉぉぉっ!!!!!!
その前にどこからわいて出たっ!!」

気が付くと綾香の後ろにセリオが立っていました。

「………」
「そんな言い方はセリオに失礼ですよ? って姉さん…いきなり背後に立たれたら誰だって驚くわよ…」
「それは気が付きませんでした。申し訳ありません、綾香お嬢様」
「…いや、もういいわ…。それよりセリオ、絶対に姉さんの実験に付き合ったりしないで。 危険だから。主に私が
「………」
「何で目を逸らすっ!?」

綾香、セリオは私に協力してくれているだけなんです。
何か言いたいことがあるなら私に言ってください。

えっと…確かこういう時はこう言うのでしたでしょうか。

「………」
龍の文句は俺に言え? 姉さん……何でそういうネタ知ってるの…」

綾香も知っているじゃないですか。

「はぁ…いい、もういいです。この話は終わり。 とにかく今年はちゃんと浩之と一緒にいられるんだからいいわよね」

ええ。
お爺様の説得に少々てこずりましたが。

「はい。あの時は大変でした。毒は警戒されていますので、 ウィッカンに伝わる呪法を行いましたから」
「………しばらくお爺様の目が虚ろだったのはそういう訳ね……」
ちなみにお爺様は3日ほど電波系の人になっていました。
アレは素晴らしかったです…。
複雑に多くの法が絡み合っていながらも、立派に体系づけられた呪法…。
うっとり…。

「あー、姉さん? トリップしてる途中悪いけど、 そろそろ着替えないとパーティーに間に合わないわよ」
「そうです。それで私はお嬢様達をお呼びしようと来たのです」
「……だったら早く言いなさい…。あなたまで姉さんの逝きっぷりに付き合ってどうするの」
「申し訳ありません。では芹香お嬢様、綾香お嬢様。お召し替えのご用意を」
「はいはい。ほら姉さんも。せっかく浩之が着てくれんだから、可愛い服着ないとねー」

そう笑って、綾香が私の背中を押します。
私はその言葉に赤くなりながらも、綾香にされるがままになりました。
綾香なら良い服を選んでくれるでしょうから。
ねえ、綾香……。










誕生日。
物心ついたときから私の誕生日にはバースディパーティーが毎年開かれていました。
皆が口々に「おめでとう」と言ってくました。
お爺様、お父様、お母様、セバスチャン、私の身近な人たちも笑いかけてくれました。
嬉しくなかったわけじゃありません。
でも、全く知らない大人の人にも「おめでとう」と言われました。
どこかの会社の偉い人たちでした。
私には何故かそれが嘘の笑顔、嘘の言葉に思えて。
それが毎年続いて。
いつのまにか私は自分の誕生日が好きではなくなっていました。
皆が、仮面を被って私に嘘を言う日。
そう思ってしまったから。


その考えが少し変わったのは、綾香に会ってから。
アメリカで暮らしていた綾香が日本に来て一緒に暮らすようになって。
そして綾香が来てから初めての私の誕生日。
バースディパーティーが始まる前に綾香は笑って 「姉さん、お誕生日おめでとう」と言ってくれました。
その言葉に、私は「……ありがとう」と小さく返すだけ。
嬉しいと思うと同時に、あの時、私は少々落胆しました。

私と外見は双子のように似ていても性格は正反対の綾香。
自分の考えをしっかり持って、それに従って行動したせいで何かとお爺様に叱られていた綾香。
その後に綾香はいつも私に愚痴をこぼしました。
不満げな顔でぶつぶつ文句を言う綾香に相槌を打ちながら、私は新鮮な感動を覚えていたんです。
綾香は他の大人とは違う。
いつも自分でいられる。
だから、私はまだ少ししか一緒に暮らしていない妹が大好きだったんです。

でも、そんな綾香でも、さっき言われた言葉には今までの大人と同じように思えてしまったのです。
だから……あの時は少し悲しくなりました。


だけど、綾香は「おめでとう」って言ってくれた後に……
「さっ、姉さん行こう」って行って私を衣装部屋に連れて行ったんです。
今のように、私の背中を強引に押して、笑いながら。

私もメイドたちも困惑しました。
ドレスの用意をしようとするメイド達に綾香は、

「今日は姉さんの服は私が選ぶのっ」

って無理やり部屋から追い出しました。
いつも私は、こういう時にはドレスはお母様が指示するかメイドたちが選ぶかしたものを 着せられていたなのに。
「今日は姉さんの誕生日なんだから、私が一番可愛い服を選んであげる。
これが私からのプレゼントよ」

そう言って綾香は「これがいいかな…あ、でもこっちも…」とドレスをいっぱいひっぱり出して悩んで。
次々と私に着せていました。
その時の私は綾香にされるがままの着せ替え人形。
でも。

「姉さん、こっちはどう思う?」
「姉さんにはこの色の方が似合ってるかな?」
「リボンはどんなににしよっか?」

答えているうちに私は……いつの間にか楽しくなっていました。
綾香が色々質問してきて。
たまに私が選んで。
それを聞いてまた綾香が選び出して。
楽しかったです。
きっと綾香も同じだったはずです。

目の前でうんうん唸りながらいっぱいの衣装に埋もれている綾香を見て、 私は知らず知らずの内に笑顔になっていました。
ああ、やっぱり綾香は綾香です、って。
自分をしっかり持っている、決めたことは絶対にやり通す私の可愛い妹。

そして綾香が「やっぱりこれ」っていう言ったドレスを着せてもらって。

「うん! 似合ってるっ! 姉さん、どう? すごく可愛いよ」

姿見の前に私を背中を押して連れてきて立たてそう綾香は言いました。
綾香は私の肩に手を置いて、首を傾けて私の頭の横から鏡を覗き込んでいます。
鏡に映ったその自身ありげで、でも少し緊張の色が見える顔に対して私も笑顔で応えました。

「……ええ、嬉しいです。ありがとう、綾香」










「うん! やっぱり姉さんには白が似合うわね。これに決まりっ! セリオ、どう思う?」
「はい、芹香お嬢様に大変似合っていると思われます」
「ふふーん、そうでしょ?」
綾香が背中を押して、私を姿見の前に立たせました。
鏡越しに見える綾香は背格好は成長していてもその自身ありげな笑みは昔の、あの時のままです。
「私が選んだのよ」って、その顔がそう言ってます。
だから、私の応える言葉も決まっています。

「どう、姉さん?」
「………」
「うんっ! どういたしまして」

綾香もやっぱりあの時と同じ、最高の笑顔になりました。








そして、パーティ会場。

「あ、先輩。今日はお招きありがとうな」
「………」
「こちらこそ来て下さってありがとうございます、だって?  ははっ。愛する先輩の誕生日だぜ。来ないわけないさ」

浩之さんの言葉に私は真っ赤になって目を逸らしました。
いつもこの人は、真っ直ぐに感情を私に向けてくれます。
嬉しいのですけど、時々とても恥ずかしくなります…。

ふと横を見れば、そこには離れたところでニヤニヤ笑っている綾香の顔がありました。
………綾香…お姉さんをからかっちゃいけませんよ。
私の使い魔兼アルター『BLACK CAT』に襲わせますよ?

そんな思いを微塵にも出さず、私は浩之さんに向き直りました。
浩之さんはずっと私を見てくれてたようです。

「じゃあ先輩。お誕生日おめでとう」
「………」
「ありがとうございます? うん、どうもっ。先輩、可愛いよ。ドレス似合ってる」
「………」

ええ。
ありがとうございます。
浩之さんもそう思いますよね。

だってこれが、あの年から続いている綾香からのプレゼントなんですから……。


<了>




<後書き>

はいっ!! 今年も12月20日がやって参りました!!
芹香様の御生誕の日です!!

お誕生日おめでとうございます、芹香様!!!!



というわけで芹香様の永遠の下僕が送る芹香様御生誕SSです。
………ってあれ?

昨年の反省を踏まえ、シリアスとほのぼのを入れたはずだったのですが…。
ちょっと暴走気味です。
何より、何故か綾香様がかなり目立ってます。

でもまあ、ラブラブとは違いますがこんなお二人の姿もいいでしょう。
綾香様が芹香様をひっぱって。
芹香様がそれについていって。
たまに芹香様が呪って(違)。

仲のいい姉妹風景を描いて見ました。
前半は気にしちゃ嫌です。

では、お読みくださった方々、どうもありがとうございました。


2001/12/20 ラルフ