OUT THERE SOMEWHERE?-2


GHOST
 純白のテーブルクロス。その上には、ささやかだが心のこもった料理と豊富な飲物。シャンデリアの光を反射してきらめくグラス。そして、わずかだが高価に違いない本物の花。
 ナイヴズはグラスを手に一人たたずんでいた。人々の声が波のようにさざめいて彼の耳を打ち続けている。どうしてこんなところに来てしまったのか。ナイヴズは今さらのように後悔した。この俺がクズ共に混じって飲んでいるなんて。言いようのない苛立ちを覚える。
 だが、今日は奴にとって最大級に重要な日らしいしな。ナイヴズは嘆息するとグラスを傾けた。刹那、後から強く背中を叩かれて中身をあらかたこぼしてしまう。この日の為に特別にあつらえた白いシャツの胸元に(正装だよ!正装!と何度も念押しされたのだ)、葡萄色の染みがみるみるうちに広がった。彼は怒りに打ち震えながら、後を向いた。

 ナイヴズは彼にしては珍しい表情を作った。驚愕の色を顔に浮かべて、口元を引きつらせたのだ。

 「もうっナイヴズったらこんな所でも深刻そうなんだから。おめでたい席なんだから明るくしなきゃだめじゃない!」
「……………貴様、死んだはずじゃ…!?」
彼女はナイヴズの詰問を軽く無視した。亡霊は耳が遠いようだった。
「あ、分かった。羨ましいんでしょ。やだわ、ナイヴズったら意外と子供なのね。でも大丈夫。あなたはこれからよ!頑張ってね!」
ナイヴズは絶句した。レムは構わず言葉を続けた。
「そうねえ、羨ましいってのは分からなくもないけど…」
彼女は部屋の奥を見つめた。彼は反射的に彼女の視線を追った。その先では彼の弟が満面の笑みを湛えて周囲の人々に挨拶していた。その隣に女が一人寄りそっている。
 彼女は艶やかな黒髪としなやかでほっそりとした身体を、純白のレースで覆いつくしていた。はにかみつつも、弟の腕にしっかりと掴まっている。やっぱりよく分からん。とナイヴズは思った。奴が選んだものが理解できない。だいたいレムとどう違うというのだろう?確かに違うといえば、全然違うのだが。でも行き着くところは結局、ただの人間ってことじゃないのか。あの女のなにが特別なんだか。ナイヴズは彼女をじっと見つめた。
 突然レムが腕を掴むと、ナイヴズの耳元に口を寄せて囁いた。
「チョッ、だめよ、あの子はヴァッシュのなんだから。確かにかわいいけどね。あ、やだ、もしかして図星だったのかしら?」
「!!!!何わけのわからんことを言ってるんだ貴様!!」
ナイヴズは怒りと屈辱で顔を赤くして怒鳴った。ヴァッシュ等と一緒にしてもらっては困る。大切な弟だが、それとこれとは話が別だ。第一あんな人間の女なんぞに…。
 だがレムは何か勘違いしたようだった。
「もうっ照れちゃって、かわいいんだから〜!」
ナイヴズは魂心の一撃(としか思えなかった)をくらって弾き飛ばされた。

 目を開けると、床が2センチ程先に見えた。酷く打ったらしい頭をさすりながら、ナイヴズはなんとかベッドに戻った。恐ろしく腹が立った。何て様だ。あの女が夢に出てくるとは。黒髪で青灰色の目をした・・・。青灰色!?
 ナイヴズはカーテンの隙間から差し込む朝日を呆然として眺めた。
向かいの部屋から男の悲鳴と女の怒声と鋭い音が響いた。ドアが激しく開閉し、荒々しい足音が階段を駆け上っていった。

 朝食の席では案の定、ヴァッシュの頬が片方腫れていた。指の形が一本一本はっきりと分かるほど、くっきりとした手形がついている。ナイヴズは忌々しく思いながらも、その原因を作った女を見つめた。彼女は怒りを表面に出すまいと努力していた。ただの下等な人間じゃないか。何故こんな奴のされるがままになっているのか。ナイヴズは弟に対しても怒りを覚えた。
 その時、彼女が彼の視線に気づいた。メリルは酷く気まずそうな、それでいて少し悲しそうな顔をして微笑んだ。途端にナイヴズは軽い自責の念にかられた。同時にそんな自分にかなり激しい苛立ちも覚えた。何故こいつに「悪い」と思っているのだろう・・・。
 あまりそれについては考えたくも認めたくもなかった。

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