わしはバス停まで嬢ちゃん等を送って行った。少し名残惜しかったんだよ。
 バスが来るまでわしらは世間話をした。仕事は楽しいかね、とかな。楽しいですよ、ヴァッシュさんとってもいい人だし、この間なんて大豆おごってもらったんです!これはミリィの方だった。ちょっととぼけたところのある子なんだよ。そこがかわいいんだがな。アイスですわよ、とメリルが速やかに訂正してた。そうか、とわしは相槌を打った。二人とも奴と仲良くしてやってくれよ。ああ見えて、あいつは結構寂しがり屋なんだ。二人とも一瞬きょとんとした顔をしてたが、すぐに頷いてくれた。
 いよいよバスが来て、乗ろうというところになって、メリルの方がそういえば伝言を聞いていない、と言い出した。律気なんだな。そうさなあ、できればまた近いうちに寄ってくれるように伝えといてくれ、とわしは言った。もうこんなじじいだしな、早くしてくれないと次に来てくれた時には死んじまってるかもしれん。
 まあ、そんなこと。メリルは少し困った顔をして笑った。でも分かりましたわ。必ずあの人にお伝えします。本当にお世話になりました。そう言うと手を差し出してきた。小さな手だったな。わしらは固く握手を交した。それからメリルはもう一度別れの挨拶をしてからタラップに向かっていった。わしはその背中を見ていると、急に辛くなってきた。あの嬢ちゃんはきっと、奴が歳を取らないことなんて知らんのだろう。自分が置いていかれる本当の理由になんて気付いてないんだろう。そう思うとたまらなくなってきて、わしは小さな背中を追いかけるように声を掛けた。待ってくれ。一つ、つけ加えといてくれ。次に会うときはあんたの話が聞きたいってな。あんたの家族に会ってみたいってな。そう言わないといけないような気がしたんだよ。メリルはタラップに足をかけたところだったが、わしの方を見ると了解の合図に片目をつぶってみせた。それから階段を上っていったが、なんだか泣きそうに見えたな。
 やがてバスは発車した。二人は一番後ろの窓から顔を出して、見えなくなるまで手を振ってくれた。わしもずっと手を振ったよ。バスの向かう先には、欠けた昼間の月が出ていたな。
 嬢ちゃん等があれから奴に会えたかどうかなんて知らんがね、わしはきっと会ったんだと思ってる。今どうしてるかも知らんがね、一緒にいるのかもしれんし、いないのかもしれん。わしは一緒にいて欲しい、と思っとるよ。それがヴァッシュにとって必要なことのような気がするんだな。

 それから3ヵ月位して五番目の月に穴があいた。そっから先はあんたらも知ってることさ。ヴァッシュ・ザ・スタンピードがやったって噂が流れてる。恐ろしい死神だってな。確かに奴の向かった方向にジュネオラ・ロックはあるけどな、それが何だっていうのかね?あんたは奴が月に穴を穿つところを見たのかね?わしは見ていない。そうだな、奴は何十年も姿が変わらねえような化物かもしれん。月に穴をあけたのだって案外本当かもな。ロスト・ジュライのこともある。だが少なくともわしには、奴は昔この町を救ってくれた英雄だし、ただの寂しい孤独な男にしか見えん。好きな娘から逃げまわっとるような、ちょっと情けない奴だよ。
 さて、まだあの月が恐いかね?あの穿たれた穴が?確かにあれは恐ろしい。だがそれは月のことじゃない。月を穿つ、その力がだよ。それがどこから来たのかは、誰も知らんことだ。そうじゃないかね?わしにとってあの月は、古い友達を思い出させるもんだ。

 どうだい、いい月夜じゃないかね?

FIN





あとがき

 なんか…掟破りなことをしてしまった気が…。ひいいい!!えと、あのですね、「全然関係ない人から見たトライガンのメインキャラ」、「誰かが一方的にひたすらしゃべくる話」というのがやりたかったんですよ…。全然関係ない人、ってのはやはり無理だったんですけど(爆)。こんなにオリジナルキャラが出ずっぱりで良いものかどうか(そういう問題以前なのでは…)。あう。ちうわけで、別にばしさんフォロー話とかメリルさんイイ女化計画とか、擦れ違い萌え!とか切ない両想い(ドリーム)とか、手も握らないイライラ恋愛萌え!とかそういうのではないです(それ言わない方がいいのでは自分)。しみじみちょっとイイ話(笑)、ちうのがやりたかったんですよ…。だいたい長くなりすぎるのが分かってたので、メリミリ出すつもりじゃなかったし。でも自分の好きなキャラ出さんでどうする、と思って結局出しちゃいましたvてへ。
 こういう展開でロスト・ジュライの話が出てこないのは絶対おかしいと思うんですけど、それつっこみだすとキリないので割愛しました(エ!?)。それに、普通はそういう痛い質問って簡単にはしないもんでしょ。とも思ったので。そうだ!本当はばしさんは、この「数十年前」と現在では外見的に恐らく3〜5才位歳取ってると思います。でも子供の記憶だしなー…全然変わってないように見えるんじゃないかにゃー… というわけで無視しました(エ!?)。

 タイトルは、最初自分で考えてたんですけど、あまりにも酷かったのでボツにしました…。結局ヤプーズの曲から取ってます。毎度マイナーですみません。歌詞の内容はこの話とはちっとも結びつかないんですけど、カッチョよいタイトルなのでいただき!ってわけです。でも内容と今いち一致してない気も…。あわわ。なんか、月をモチーフにするのはありきたりでヤだったんですけど、おっさんが話を始めるとっかかりがどうしても思いつかなくて(殴)。やむなく。

BACK/ TOP