halve

 彼女が怒っているらしい。周囲の冷たい視線から察するに、原因は自分のようだ。
 悪いけど、その手には乗らないよ。ヴァッシュは黙々とスープを口に運んだ。いつも同じ手が通用すると思ったら、大きな大間違いだ。



 きっかり2分後、食堂の出口に向かうヴァッシュの姿があった。自分を呪う。あっさり屈服した自分が憎い。今回は負けないつもりだったのに。でも、味のしないスープを食べ続けるのにはとても耐えられなかった。



 行く先々で出会う人々は皆笑顔で、やたら愛想が良かった。別世界。頼みもしないのに彼女の目撃情報を提供してくる上、それと違う場所へ向かうとさりげなく、しかし有無を言わせぬ調子で軌道修正されるのは癪にさわったけれども。

 どうやら仲直りするまでは、永久に解放されないようだった。



 冷気が待ちかねたように開け放たれた扉から溢れ出て、ヴァッシュは身震いした。コートの前を手で寄せると、ゆっくりと歩を進める。無意識に唾を飲み下したことに気づいて苦笑した。緊張している。

 「ヴァッシュさん!?」
 背後から聴きなれた声がして、ヴァッシュは振り返った。背面上部のコールドスリープシリンダーの間に、白く小さな姿が浮かび上がっている。彼女は少し驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔に変わった。

 ――――――――騙された。

 ヴァッシュはメリルを見上げたまま、がくりと膝を落とした。うなだれる。こんな子供騙しに引っかかるなんて――――――。

 「どうかしましたか?」
 急に間近で呼びかけられ、ヴァッシュはびくりと身体を震わせた。怒りとも動揺ともつかない感情に飲み込まれているうちに、メリルがいつのまにか側まで近寄ってきていたらしい。彼女は不思議そうな顔をしてこちらを見上げていた。慌ててなんとか微笑みらしいものを浮かべてみせる。
 「どうしてここに?」
 「あっ、えっと・・・うん、ちょっとね。君は?」
 メリルは一瞬目をそらすと、恥ずかしそうな、それでいて得意そうな微笑を浮かべた。


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