第 1 話
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「志津樹(しづき)っ、志津樹っ!!」
静けさを突き破るように、大きな足音を立てながら、宮の中を少年が駆けていた。
まだ、幼さの残るその真っすぐな瞳は、しかし、揺るぎない意思も秘めた強い色を放つ印象的なものだった。
「志津樹はどこへ行った?」
宮の奥まで進んで、行き止まった部屋で立ち止まる。
そこに求める人の姿を見いだせなくて、しばし考えた後、次に思い至る場所を目指して、再び駆け出そうとする。
その彼に、横から厳しい声が飛んだ。
「炎武の君、お静かに願います」
振り返って見たそこには、女官を従えたこの宮の巫女頭が座していた。表情はいつもと変わらぬ穏やかなものであったが、口調は有無を言わせぬ。
「いやしくも神の住まう宮代に、そのような荒ぶる様相では、今後出入りを禁じねばなりませぬ」
しかし「炎武」と呼ばれた少年は、彼女の言葉など理解した様子はなかった。
ずかずかと巫女頭の前へ進み出ると、平生の口調のままで尋ねる。
「志津樹はどこだ?」
少年の問いに、彼女のきれいに整った眉がわずかにしかめられる。
「奥の間にてお休みでございます。夜明けまで祈祷所に務めておいででしたゆえ。ですから本日は…」
「そうかっ」
少年は、彼女の言を最後まで聞かないうちに再び駆け出した。
「お待ちなさいっ」
慌てて止めるが、聞く耳は持たないようだった。
無邪気に一度振り返り、手を挙げて軽く礼を述べただけで、少年はそのまま柱の向こうへ姿を消した。
あっと言う間のことだった。
「やれやれ、困った君だこと」
ため息交じりに一人ごちる巫女頭に、他の巫女は苦笑を禁じ得なかった。
どう叱ろうとも、この少年に笑顔を向けられては怒る気力さえ根こそぎ刈り取られてしまうのは、この厳しい女性であっても同じだった。
この里に住む誰もが、彼を「炎武の君」と呼んで慈しんでいた。
彼はこの里を守る炎の力を宿したひとりごであった。