Stay for You -番外-
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冗談じゃない、冗談じゃない、冗談じゃない。ここで手放すことなんてできるものか。
今度こそ、今度こそ、今度こそ、この手で捕まえてみせる。
弘毅の向かったのは駅舎だった。だが、勢い込んで飛び込んでから後悔した。どの汽車に真雪が乗るのか東藤に吐かせてやればよかったと。ここの駅は地方の町にしては結構大きな駅で、ホームの数も多かった。
弘毅は、手当たり次第に捜すしか方法がなかった。
「くっそーっ」
舌打ちして駆け出す。人込みをかき分け、かき分ける。
「真雪ーッ、真雪ーッ」
名を呼びながら、息を切らせながら。
この時間、もう出発してしまっているかも知れない。まだ出発していないかも知れない。もしかしたら汽車を使わないかも知れない。だが、弘毅は捜すことをやめる訳にはいかなかった。
今、取り戻すことを諦めると、今度こそ二度と真雪を捕まえられない気がして。
最初は真雪の方から自分の元へ来てくれた。だから今度は――。
「真雪ーッ!」
何度も叫ぶが、周囲の雑踏にかき消される声。喉もかれる程叫んで、その中で小さく聞こえたものがあった。
「弘毅」
空耳かと思う程に小さな声。
弘毅は声のした方向を振り返る。そこに立っていた小さな子どもが人の間に一瞬、見えた。
弘毅は人込みをかき分け、駆け寄って。
「真雪ッ!」
抱き締めた腕の中に小さな温もり。
「弘毅…」
呟く声。
何もかもが大切でいとおしい。もう放したくない。そう思った。
「お前、どうして…」
周囲を見回すと、あの父親の姿はなかった。
「えへへ。逃げてきちゃった」
にっこり笑う顔に悪びれた様子もなかった。そんな真雪に苦笑を禁じ得ない弘毅。しかし、それが嬉しくて。
「もう一度お前をさらって行ったら、お前のオヤジ、どこまでも追いかけてくるかな」
「多分ね」
クスリと笑う真雪。
「そんな旅も面白いかもな」
言って弘毅は真雪を抱き上げる。
「弘毅らしいね」
「何だ、そりゃ」
返しながら弘毅は歩きだす。真雪を連れて。
行き先はいつも未定。だけどこの傍らにお前さえいれば、それでいい。
弘毅の腕の中で、この温もりが今、確かなものとなった。
-END-