-4-

2/8


 足元に滴る血の跡。身体に付着する返り血。日増しに形相が変わっていくように見えた。

「峻っ」

 弘毅が呼びかけると、クローン人間は顔を上げる。無表情のままだった。

「ボクを殺しにきたの?」

 クローン人間はチラリチラリと周囲に目を走らせる。

「あの子はいないの?」

「俺一人だ」

 その言葉にクローン人間はにっこり笑った。が、血を滴らせるその顔ではとても笑顔と呼べるようなものではかった。

「だったら今日こそ本当にコウキをボクのものにできるよね」

 言って、近づく。

「俺一人いたらいいか?」

 かける言葉に、いらえはなかった。

「お前がそれで満足すると言うのなら、いくらでもお前にくれてやる。だけど」

 クローン人間は弘毅の側まで歩み寄る。弘毅の首にからめてくる腕。ツンと血の匂いがした。

「殺すなら俺だけにしろ。お前をこんなにしてしまったのは、この俺だ」

 クローン人間は答えず、弘毅に縋り付く。

「峻?」

 擦り寄るクローン人間を引きはがし、その顔を覗き込む。赤い瞳がガラス玉のようにキラリと光る。

「コウキを殺してしまったら、ボクには何が残るの?」

 感情のこもらない瞳が悲しく映る。

「ボクからコウキを奪う者は許さない」

 言ってクローン人間は再び弘毅に抱きつく。

「みんな、みんな許さない」

 低く呟かれる言葉に、弘毅はもう一度クローン人間を引きはがす。

「約束しろ、峻。もう人は殺さないって。街も破壊しないって」

 クローン人間はゆっくりと弘毅を見上げる。

「約束? コウキがボクを捨てたのに、何を約束なんて言うの?」

 言って薄く笑う。血の滴る顔にぞっとする。

「コウキ、大好き。でも、でも、許さない」

 クローン人間は弘毅の首に回した腕に力を込める。

「…峻…」

 骨が折れるのではないかと思う程の力に、弘毅はクローン人間を引きはがそうとするが、その力には適わなかった。これが人ならざる者の力だった。


<< 目次 >>