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 一晩中眠れなかった。夜明けを告げる鳥の声すら聞かないまま、ただ、握り締めた拳が白くなるのをぼんやり見つめていた。

 カーテンの隙間からこぼれる陽の光に気づいたのは、部屋のドアを叩く音がしてからだった。

「おーい、弘毅、起きてるかー?」

 ドアをうるさく叩きながらも、その声はのんびりとしたものだった。それが三澤のものだと気づいて、弘毅は気を引き締める。

 峻――クローン人間が出現したのだ。

 彼の来訪がそう告げていた。今度こそ自分で立ち向かう。弘毅は決意して立ち上がった。


   * * *


「寝てない顔してるな」

 急いで顔だけ洗った。と言っても冷たい水を被っただけだったが、目を覚ますにはそれだけで十分だった。

「お前さん、メシ食ったのか?」

 ハンドルを握ったまま聞いてくる三澤に、弘毅は答えず、その代わりに出たのは真雪のことだった。

「あいつ、どうしてる?」

「は? あいつ?」

「真雪」

 惚けたように聞き返す三澤に、弘毅は苛々しながら言う。そんな弘毅の様子を面白そうに見やりながら三澤は答える。

「司令官が出勤してきていたから、大丈夫なんじゃねぇの?」

 いや、それは安否の基準にはならないと弘毅は思った。あの東藤は例え親が死にかけても、非常時には迷わず任務を選ぶだろう。

「心配か?」

 やや揶揄のこもった声に、弘毅は答えなかった。無事ならそれでいい。

 黙り込む弘毅に、三澤は口調を変えずに続ける。

「珍しいな。お前さんが峻以外のヤツに興味を持つなんて」

 弘毅はその言葉も無視した。が、その僅かに変わる表情に三澤はチラリと目をやる。

「ま、ちょっとは前向きになったってことか」

 無視し続けようとする弘毅に、三澤は肩をすぼめるだけで許した。

 そしてたどり着く場所。

「お、見えてきたぞ。クローン人間の食事現場」

 余り面白くない冗談に、弘毅は舌打ちしただけで返した。


   * * *



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