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 うなだれる弘毅に、東藤は厳しい表情のまま吐き捨てるように言った。

「もういい。真雪にやってもらう」

「えっ?」

 その名に顔を上げる。

「片腕だけしか使えなくても、今の君よりはマシだ。次に実験体が現れたらまたあの子に頼むしかあるまい」

「でもアイツは…」

 とても動かせる状態ではなかった。毎日のように出現するクローン人間に立ち向かうのは、絶対に無理だと断言できる程に。そう言う弘毅を、東藤はジロリと睨んで。

「あの子は私の息子だ」

「ええ―――――っ?」

 思わず大声を上げる弘毅に、東藤は表情を崩さないまま。

「君にとって峻君が大切だと言うのなら、私にとってもあの子はかけがえのない家族だ」

 言って、背を向ける。

「今日はもういい。宿に帰って休みたまえ」

 そのまま弘毅を拒絶した。弘毅はその背に複雑な目を向けてから、黙って部屋を後にした。


   * * *


 宿までの道程は、徒歩では結構遠い。それを弘毅はぶらぶらと歩いた。

 道すがら目にする破壊された街は、まさしくクローン人間の仕業だった。

 止めなければいつか街全体が破壊される。いや、国ごと破壊されると言っても過言ではなかった。現に病院は怪我人で飽和状態で、死体安置場所にすら困る状況だった。

 すべてクローン人間の所為だった。否、元を正せば自分の所為なのだ。それなのに、肝心な自分は何もできないでいた。

 情けないのは分かっている。しかし、それならばあのクローン人間をどうしたらいいと言うのか。

 また傍らに置いて愛してやれば、いつかきっと人間の心が芽生えるなんて、おとぎ話のような事は信じてはいない。しかし、期待する気持ちはどこかにあった。それは現実逃避だと知ってはいても。

 歩を進めながら、ふと、弘毅は思い立つ。

 病院はここからそう遠くはなかった筈。真雪の様子を見舞っていこうか。東藤に後で嫌みを言われるかも知れないが。

 思うが早いか、弘毅はくるりときびすを返した。


   * * *



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