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「なんて様だ」
東藤が吐き捨てるようにして言うのを、弘毅は顔を背けたままで流す。
真雪はすぐに病院へ搬送された。左腕の肩が外れ、上腕の骨が折れていた。緊急手術で何とか対応したものの、当分は動けないだろうことは明白だった。
いくら身体を破壊され、砕け散っても、簡単に蘇るクローン人間。それに比して、そのクローン人間に腕をねじ上げられただけで重症を負ってしまう真雪。
その小さな身体で、それでも何度も立ち上がっていた。あの年頃の子どもなら痛みに泣き叫ぶであろうものを黙って耐えて。
片方でクローン人間に突っ走ろうとする弘毅を止めながら、もう片方でそのクローン人間と対峙する。超能力の腕前だけではない、とても子どもとは思えない分別と忍耐力を備えていた。
「とにかく真雪があれでは、他に作戦を考えねばな」
東藤は言ってため息をつく。その中に少なからず弘毅への失望と憤りも込められていた。
「私も司令官である以上、そうそう現地へ出向く訳にもいかんからな」
腕組みをして椅子に深く腰掛ける。
「…何で俺を呼んだ?」
弘毅は突っ立ったまま、東藤を睨み据えた。
「こうなることくらい分かっていただろ」
「そうだな」
東藤は睨む弘毅から視線を逸らして、窓の外へ向ける。
司令官の部屋から見える景色は、街の高いビルと青い空だけだった。街の緑も人の生活も、窓辺へ寄って見下ろさなくては見えない。それを遠くに眺めやりながら。
「だが、もう少しまともに動くものと思っていた。まさか昔のままとは思わなかったのでな」
言われて弘毅はムッとした表情を向ける。それをチラリと見やって続ける東藤。
「あれは峻君ではない。頭では分かっているのに感情がそれを理解しきれない。まるっきり子どもだ」
弘毅はバンッと音を立ててデスクを叩く。
「そんなこと、関係ねぇだろっ。大人だろうと子どもだろうと、大切なものはいつまでたっても変わらねぇっ」
「大切なもの…か」
含み笑いのこもる東藤の呟きに、ギッと睨み上げる。そんな弘毅に東藤はそれまでのすました顔を一変させた。
「その大切な峻君に、いつまであんな事をさせておく気だ?」
「あんな事って…」
人を食らい、平気で人を殺める。感情を持たない人形のような冷たい表情を浮かべながら。その姿は弘毅の知る峻ではあり得ないのだ。それなのに、その峻の顔をして、峻の身体で凶行を繰り返す。
「それでも…」
あのクローン人間を葬ることなんて、自分にはできなかった。どうしても。