第 1 話
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非現実な事柄に、翔は何だかばかばかしくなる。
「あるわけないじゃない、こんな馬鹿な話っ」
振り返る寛也に、翔は食ってかかる。
「だって、超能力なんてあり得ないよっ。今時、漫画にだってないよ。杳兄さんだって、ちょっと不良してただけだよ。他に何もできない、ついこの前まで普通の高校生してて…ほんの一カ月前までは本当に何も…」
「その一カ月前にな…お前だって知ってるだろ、うちの学校の上級生6人が惨殺されたのを」
「え?」
それは、全国ニュースになるまでに大きな話題となったことだった。翔の通う高校で、宜しくない行動を繰り返していたらしい3年生が6人も一度に他殺体で見つかったのだ。放課後のことで、学校中が大騒ぎになった。
「あれやったのな、葵杳なんだ」
寛也の言葉に、翔は耳を疑う。
「うそっ。だってあれは、何か大きな獣の爪か牙みたいなものでやられてたって…」
当初、野良犬か何かだと考えられたこともあったが、体格の良い高校生を6人も襲って死に至らしめる程の野犬がこの辺りにいる様子もなく、事件は混迷していた。
「俺は直接見た訳じゃない。だけど、あれは…」
「なに無茶苦茶言ってんだよっ。そんなこと、人にできる訳ないっ。第一、杳兄さんはそんなことするような人じゃない…杳兄さんは…」
ぎゅっと唇を結んで、睨むように寛也を見やる翔。その震える肩を見て、寛也は口調を和らげた。
「悪かったよ。こっちも気が立ってたんでな」
言って、翔に手を差し出す寛也。その手を払う翔。
「僕は目の前で見た真実しか信じないからね。杳兄さんだって、僕が絶対に連れ戻してみせる」
そう言い切って、翔は駆け出した。
慌てて呼び止められたが、無視した。翔はそのまま外に飛び出した。
外は夜が明け始め、空が白みかけていた。