第 9 章
守るべきもの
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どれくらいの時間が過ぎたのか、寛也は近づいてくる足音に顔を上げた。
「日は沈みましたよ。後は僕が引き受けます」
翔はそう言って、杳の身体を引き取った。
寛也は黙って引き渡してから、立ち上がる。
辺りはすっかり暗くなっていた。
「抵抗しなければ、痛みもなかったのに」
杳の腕をさすりながら呟いた翔の言葉を聞き流して、寛也は一歩退く。
その寛也に、翔が声をかけてきた。
「杳は、誰にも渡しませんから。特に、貴方だけには」
そう言って見上げてくる目が挑戦的だったが、寛也は黙って背を向けた。
腹立たしい思いもなかった。
ただ、胸を焦がすような熱だけが残っていた。
――まるで炎に焼かれたようだ。
そう思って、寛也は苦笑する。
手のひらに乗る竜玉が、炎のように煌(きらめ)いた。
ここから家まで歩いてどれくらいだろうか。
しかし竜体になる気も起きず、涼しくなっていく海風に当たりながら、家路をたどり始めた。
「晩メシ、何かなぁ」
呟いた声が、潮騒に流されて、消えた。
竜神伝 第一部
- 完 -