第 9 章
守るべきもの
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遠い過去のあの日。
辺り一面、焼け野原と化していた。
どれ程の人や者を失って、犠牲にしてしまったのか、計れなかった。
それでも天の名をいただく竜神の長は、戦うことをやめなかった。
呆然と見やる仲間たちの中で先陣を切ったのは、竜神達の中でも最も年若い炎竜だった。正義感の強い、向こう見ずな性格は、荒ぶる神と称され、畏れられていたが、その一方で、深い情熱を持っていた。
炎竜とともに戦いに出たのは風を司る竜だった。天竜王、地竜王に次ぐ年長の竜でもあり、四天王の名をいただく竜神達の長でもあった。炎竜を上手に導き、均衡された戦いに見えたのもつかの間、燃え尽きた炎竜に続くかのようにして、風も止んだ。
炎竜と風竜に遅れて参戦した石竜と水竜も、長くはもたなかった。炎竜、風竜と同様に、青銀の天空に散った。
きらめく竜剣の前にあっさりと敗北を記したのは、平和の象徴とされた他の五体の竜達だった。光竜の教え諭す光も、木竜の心地よい囁きも、華竜の安らぐ花の香も、闇竜の癒しの術も、歌竜の心和ませる歌声も、天竜王の心に届くことはなかった。
傷つき倒れていった年若い者達の姿を見やりながら、自分にはどうすることも出来なかった。
天の名をいただく竜の気持ちが、痛いくらいに伝わっていたから。地の名をいただく自分と天の名をいただく彼とは、対として相反する存在であると同時に、ひとつの魂を共有する同一の性(さが)を持っていたから。
だから、剣を振るう竜王に牙を剥くことはできなかったのだ。
ただ、終わらせなければならない現実だけが目の前に存在し、その為だけに全身全霊を込めた。
悲しみの全てを封じ込める為に。
竜王と、剣と、人間の少女と。
そして、全ての竜達と、自分自身を。
* * *