第 1 章
竜神目覚めるとき
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 スプーンに三つ目の砂糖をコーヒーカップの中に入れてから、結崎潤也(ゆうざきじゅんや)は、食卓の向こう側に座る兄の顔を見やった。彼はまだ、寝ぼけ眼(まなこ)のままだった。

 そんな双子の兄であるの寛也(ひろや)は、のんびりと、明け方見たという夢の話を続けている。『竜』が出てきたのだと言いながら、大きな欠伸をひとつして、けだるそうにトーストにかぶりつきながら。

 ――情けない顔…。

 同じ顔の作りをした双子であるのに、どこをどうしたらここまで崩せるのだろうかと、いつも潤也は疑問に思っていた。こんな顔、自分には絶対できないと思いながら、兄の話を聞き流していた。

「すっげぇ懐かしい気がするんだけど、お前、覚えねぇ?」
「さあね」

 そっけなく返してやる。

「日本昔話じゃないの? 竜の話なんて、おとぎ話じゃ有りがちじゃない? それよりも、ほら、これも食べちゃってよ」
「ん」

 潤也が差し出すままに、寛也は次のトーストにも手を伸ばした。

 潤也達は学校の近くのアパートで、二人暮らしをしていた。

 母親はまだ幼い頃に亡くなった。父親は何年も前から、東京へ単身赴任をしていて、帰って来ない。2人きりの生活を始めて、もうどれくらいになるだろうか。

 本来なら、父のいる東京へ行けばよかったのだが、行けない都合があった。それは、生まれつき身体の弱かった潤也にとって、都会の環境が好ましくないのと、ここなら、近隣に施設の整った医療機関と名医がいたからである。

 今でこそ、体育の授業中に倒れたりすることもなくなったが、それでも心配は絶えなかった。

 兄の寛也は、そんな潤也に付き合うように、この地に残ることを選んでくれた。

「それはそうと、ジュン」

 かじったトーストを半分置いて、ふと、寛也は顔を上げた。


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