第3章
償い
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「ここは迷路か…」
寛也は幾つにも別れた渡り廊下に、とうとう迷って立ち止まり、辺りを見回した。
どれだけ歩いても、似たような日本庭園と襖を擁した細長い廊下が続き、どう考えても、人を迷わせる作りだとしか思えなかった。
これは多分、十中八九、寛也に杳の部屋へたどり着かせない為に仕組んだのだと思われた。
寛也は、帰る道順まで見失ってしまいそうだった。
「それならそれで、受けて立とうじゃねぇかっ」
握りこぶしして、大声で一人ごつ寛也の声は、ただの負け惜しみにしか聞こえなかった。
と、背後から声がした。
「何、力んでんの? こんな所で」
今の今、求める人の声に寛也は自然に綻ぶのを隠せない顔で振り向いた。
そこに、杳がいた。襖を開けて、少しだけ首を傾げている。
「お前の部屋、ここか?」
当然のように中へ入ろうとして、杳に止められた。
「ちょっと。忘れたの? オレとヒロ、ただの友達なんだから入っちゃダメだよ」
「はあ?」
入り口から何とか寛也を押し出そうとする杳。
「友達なら入れてくれてもいいだろ? お前こそ、何言ってんだよ?」
杳の頬がほんの少し朱に染まるのを見て、寛也は嬉しい気持ちが沸き起こる。
多分、杳は寛也を意識しているに違いない。そんな杳が可愛く思えて、すぐにでも押し倒してしまいたい衝動にかられるが、ここが結果内であることを思い出してぐっと堪える。
「じゃあ、ちょっとだけだよ」
「おうよ」
入り口を開けてくれる杳に答えて、寛也は部屋に招き入れられた。
部屋の中は畳敷きの8畳だった。床の間付きで花まで生けてあった。
杳にその心得があるとは聞いていなかったので、きっと潤也が術を使って生けたものだと思った。本当にえこ贔屓なのだからと、寛也は呆れる。
そして、気になったのは布団が敷かれていることだった。まさか寛也を待っていた訳でもないだろう。いや、そうかも知れない。そうだとしたら嬉しい。
少しわくわくしてしまう寛也に、杳はさらりと言う。
「ヒロに嘘ついても仕方ないから…ちょっと疲れたから横になってた」
杳の言葉に寛也ははっとする。
昨日は入学式で、今日は大学で揉めて、そのまま岡山まで新幹線で帰ってきたのだ。新幹線の中で寝ていたのでそれ程気にしていなかったのだが、体調も崩すだろう。
「そう言うことは早く言えよ」
言って寛也は杳をひょいっと横抱きにかかえあげた。