第5章
性徴
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学校祭は毎年10月第2月曜日の前3日間と決められていた。1日目と2日目は文化祭、3日目の土曜日は体育祭だった。翌日の祝日は体育祭の予備日となっていた。
この期間中は学校内は解放され、他校の生徒も遊びに来ることもある。
そして、今日はその初日だった。
「って、何、その格好…」
杳は寛也の姿を見るなり、吹き出した。
どこから調達してきたものか、可愛らしいフリルのついたピンクのエプロン姿だった。
「笑うなよ。うちのクラス、ケーキ屋するから手伝えって、ムリヤリ…」
「家事の手伝いはしないのに、クラスの手伝いはするんだ?」
杳の正面に座って涼しい顔をしたまま、潤也が嫌みを込めて言った。そのくせ、目が合うと勝ち誇ったような顔をする。
「それより、何でお前と杳が一緒なんだ?」
寛也が押し付けられた仕事を不平を言いながらこなしている2年A組のケーキ屋に二人揃って現れたのだ。一緒に回っているとしか思えなかった。この自分を差し置いて、どういう事か。
寛也は取り敢えず、弟に文句をつける。が、潤也は澄ました顔のままで返して来た。
「別に僕が誰と一緒でも、ヒロには関係ないだろ。それとも…」
ふと、目が光る。
「もしかして、嫉妬してる?」
「え…」
聞かれて寛也はうろたえる。慌てて杳を見やるが、杳は兄弟の会話に興味が無いのか、目の前に置かれたパイ生地のケーキに悪戦苦闘していた。
「んな訳、ねぇだろ」
杳の自分へ寄せる気持ちには絶対の自信があった。だから待とうと決めた。が、潤也がライバルとなると多少の不安があった。
寛也と違って、身だしなみも整っているし、勉強もできるし、教師の信望も厚い優等生で、最近ではスポーツでも頭角を現してきていた。非の打ち所が無いとはこのことを言うのだと思う。杳も寛也の次くらいには信用しているのだろうとは考えていたので、1位と2位が逆転する可能性は十分考えられた。
「なら良かった。あ、杳」
ふと潤也は杳の方へ手を伸ばす。
「こんなところにクリームついてるよ」
「え?」
指で杳の口元を拭う。それをペロリと嘗め取って、潤也はにっこりと笑顔を向けた。途端、杳はナプキンをつかみ取ると、ゴシゴシ乱暴に口元を拭いた。
「なに気色悪いことしてんだよっ」
「気色悪いって…」
眉をしかめて言う杳に、潤也はガックリ肩を落とす。それを見ていた寛也は笑いを堪えるのが大変だった。
所詮はこんなものなのだ。心配することもないだろうと思った。
「食い終わったら、とっとと出て行けよ。列ができてるんだからな」
そう言って寛也は仕事に戻っていった。
そんな寛也でも結構人気があるので、寛也は客寄せなのだろう。潤也はそう思って、ケーキを美味しそうに食べる杳に目を向けた。
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