第1章
予兆
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「でも、寛也さんには言わないでくださいね。あの人、すぐ顔や態度に出ますし。今のままで杳兄さん、すごく楽しそうですから」
本当に、昔から余り笑顔を見せない子どもだった。それが寛也の前では安心しているようで、無防備に笑うことが多くなった。
ひどく悔しいが、それが事実だった。
「助ける方法はないの?」
「人間はとても繊細にできているようです。傷口を塞いだだけでは、失われていく生命力を押し止どめることはできないみたいです」
潤也は、力無くそう言う翔の肩を、ポンと叩く。
「まだ2−3年は時間があるんだろ? あみやのようにその場で失われた訳でも、綺羅のように封印に生命力を使い果たした訳でもなくて、杳はちゃんと生きているんだよ。何とか方法を考えよう。失われていくまま手をこまねいて見ているだけなんて、もう真っ平だよ」
「潤也さん…?」
きっぱり言い切る潤也は、やはりどんな時でも冷静だった。
「それから、杳はヒロにだけ安心している訳じゃないよ。君のこともすごく大切に思ってるから」
びっくりして顔を上げる翔に、潤也は軽くウインクを寄越す。
「杳は不器用なだけだって知ってるだろ? それに杳のファーストキスは翔くんだったって聞いたけど?」
「だっ、誰に?」
声に出して、潤也のニヤニヤ笑いに気づく。カマをかけらけれたのだと知って、頬が熱くなった。
「人が悪いです、潤也さん」
「そうかなぁ。これでも温厚になった方だと思っているんだけど」
のんびり返して、潤也は大きく伸びをする。
「さて。暇だから、ちょっとヒロの邪魔でもしに行こうかな」
そうそううまく行かせてなるものかと呟いて、潤也はチラリと翔を見やる。
「一緒に行くかい? 杳はまだフリーだよ」
「勿論」
力強く返して、翔は不敵に笑った。