第 １ 話
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若葉のきらめく季節、町はようやく活気を取り戻し始めていた。長の冬は蓄えを底つかせていたが、新しい芽が人々を生き返らせた。そんなふうに見えた。
普段は高台の城から見下ろすことしか許されない身分ではあったが、時折家臣の目を盗んでは町に降り、自由な人々に触れていた。自分にはこの方が性にあっているような気がしていた。いや、もっと広い世界へと出てみたかった。
男達の声、女達の声、子供達の声の入り乱れる中、セフィーロはのんびりと散策を楽しんでいた。
今日は天気も上々だった。南の国からやってきたかのような暖かな風が町をすり抜け、人々の心を和ませているのが手に取るように見て取れた。
と、その時だった。いきなり背後から人の気配がしたかと思うと、いきなり腕をつかまれた。
「セフィーロ王子ですね。御同行願います」
低い声が耳元でささやいた。しまったと思った時にはすっかり囲まれていた。
「何者だっ？」
「おおっと、大声を出さないでください。周りの罪もない人々まで巻き込んでしまうことになりますよ」
セフィーロはそう言った男の顔を見遣った。それはターバンで頭を覆い、布で顔を隠しているが、その隙間から覗く肌の色は明らかに異国のものだった。
セフィーロは素早く辺りに目を走らせる。人々は何事もないかのように行き交う。逃げる道はないかと思案を巡らすセフィーロの腕を、男は無造作に引いた。
「城の者はすべてまいたよ。安心して来ていただけますね」
冷たい目が笑った。ぞっとした。
＊ ＊ ＊
「最近は何かと物騒になってきましたからね。王子もいいかげん独り歩きなどやめてくださいね」
セフィーロの家庭教師兼世話係のリオンがそう言った時、セフィーロは今日の行動計画を頭の中で思い描いていたので、何も聞いていなかった。ただ口うるさいリオンに対して、いつもの気のない返事だけは忘れなかった。もう習慣になっていたので。
堅苦しい城、窮屈な王家、セフィーロにはこの生活は苦痛以外の何物でもなかった。かと言ってこの家に生まれ、第一の王位継承権を押し付けられた身としては、民衆の為という大義名分の前にはなす術もなく屈するしかなかった。せめてもの慰みにと、時折、城を抜け出しては自由な生活を味わっていた。これが単なるまね事に過ぎないのだと分かっていても。だからここでリオンの話をきちんと聞いていたのだとしても、それに従いはしなかっただろう。
「聞いていますか？」
「ああ」
セフィーロはそう答えながらも外出用の靴を磨き始めていた。
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