第6章
巫女−参−
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「オレ、こっちの布団、取ったから」
そう言う碧海はテレビをつけたまま布団にくるまっていた。潤也さんの早く寝ろって声が聞こえたのかな。
まだ興奮していて寝られそうもなかったけど、僕は部屋の明かりを消して、隣の開いた布団に潜り込んだ。
風呂上がりで火照った身体に、ひんやりとした布団は心地よかった。
急な来客にも応えられるようにしているのだろう。シーツからは清潔な石鹸の匂いがしたし、布団もふかふかだった。
それが誰の為に準備されていたものなのか、僕なんかが知る由もなかったのだけど。
「な、杉浦」
テレビの音を少しだけ低くして、ふと碧海が聞いてきた。振り向くと、視線はテレビに向けたままだった。
「オレ達、これからどうなるんだろうな」
そう言った声は、余り不安そうには聞こえなかった。
杳さんの考えだと、狙われたのは勾玉だけじゃなくて、それを扱うことができる巫女も同じだと言う。
そのことから考えると、勾玉を僕一人が預かったとしても、碧海達の危険は完全に回避されたことにはならない。
そこまでは面倒みきれないと断られた訳だけど、その代わりに、碧海達三人は別のお守りを持たせてもらった。潤也さん特製の敵撃退三点セット。
それぞれの持ち物に術をかけただけの簡単なものだけど、それなりの時間稼ぎはできるとのことだった。
その上で、潤也さんと翔くんの携帯電話の番号も教えてもらった。竜王である翔くんは瞬間移動もできるとの潤也さんの言葉に、翔くんは仕方なさそうに従っていたものだった。
「全面戦争とか、起こるのかな?」
竜一体でもその姿を現せば世間は大騒ぎになる。その竜が何体も現れて大暴れしようものなら、現代社会は壊滅するだろう。
そう答えると、碧海はさすがに顔をしかめた。
「敵次第だと思うよ。戦いをしかけられたら応戦するしかないよね。相手が人間を滅亡させようとするなら」
「そっか…」
碧海はそのまま掛け布団を引っ被った。
その時に、僕達には一体何ができるのだろうか。竜達に守ってもらうことだけしかできないのだとしたら、何て無力なのか。
そこまで思って、僕はかぶりを振る。
竜達が目覚めたこの同じ時代に僕達が揃って転生したのには、それなりの理由が絶対にある。
杳さんの言うように、僕達にできることをする。いや、僕達にしかできないことが、必ずある筈だ。
それを見つけ出すことが、僕達に与えられた一番最初の仕事なのだと思った。
勾玉を手にすることで始まった僕の旅は、勾玉を守ってくれる人達にたどり着いたことで一応の終着を迎えた。
ても、本当はただの始まりでしかなかった。
そして、僕達の勾玉が本当に守っていたものが何なのか。僕達が知るのはもう少し後の話になる。
竜の勾玉
竜神伝 第三部
- 完 -