第3章
古寺への招待
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「行楽の秋を満喫しない?」
世間では行楽シーズン真っ只中。朝夕がめっきり涼しくなって、心地よい秋風が吹くようになった10月も末、そう言ってきたのは悪友の一人、神田さつき(かんださつき)だった。
「これ、お店に来たお客さんにもらったんだけど」
言いながらさつきは握り締めてしわくちゃになったチラシを広げた。そこには何やら怪しげな文字で“古寺への招待”と書かれてる。
「てらーっ?」
横から覗き込んでそう奇妙な声をあげたのは、丁度ゲームをさせてと遊びに来ていた三崎由加(みさきゆか)――これも同じく悪友――だった。この由加とさつきと、私こと静川美奈(しずかわみな)の三人の事を地元では三丁目の三人娘と呼んでいる。そんなに可愛いかなぁと、二人を眺めて思うけど。
「もしかして日の出とともに起きて、日没とともに寝ると〜〜〜っても健康的な生活が送れるところ?」
由加が少し眉を寄せながらさつきに聞き返した。
「もしかしなくてもそこで合宿するの。値段も安いし、何と言ってもこの行楽シーズンの今時、このお値段はないわよ。きっと紅葉もとってもキレイよ」
さつきは一人でその気になっている。その気持ちを踏みにじるように返すのは由加。遠慮がないんだから。
「だって、カビ臭いでしょ」
「何言ってんの! 今お寺はとってもトレンディなのよ」
今時、その単語はないでしょうに。
「じゃあ、あんた一人で行けば? あたしはゲームの方が好きよ」
「あんたには自然に親しもうって気がないの?」
「親しみたかったらジャングルの奥地にでも行けばいいわ」
私は呆れて、二人の会話から外れて、チラシに目を走らせた。
一泊二食付きで一人2000円っていうのはおいしいかもしれない。何だかんだと言って今年の夏は海へ二度ばかり行ったきりどこへも行けなかったのだから、ちょこっと遊びに行くぐらい許されるでしょう。幸い夏休みに北海道旅行を反故(ほご)にされた引き換えにパパからお小遣いをまきあげる――もとい、もらえることだろうし。ま、何にもない山奥みたいだけど、のんびりするには丁度いいわ。昼は川で魚をとって、夜は虫の声に耳を澄ませて。都会の喧噪を忘れるには丁度いいわ。別に都会に住んじゃいないけど。
「よし、決めたわ!」
まだ言い合いを続ける二人を横目に、私はバンとテーブルをたたく。雀のさえずりをやめた二人に向かって、私が宣言する。
「お寺に連絡してOKが出次第出掛けるわっ」
「ちょっと美奈、本気?」
由加が私の腕にしがみついてくる。
「あたし、そんなの興味ないんだけど?」
「興味がないんじゃなくて、ヘビとかが嫌いなんでしょ?」
「やめてーっ、その固有名詞っ」
耳を塞ぐ由加。それを尻目にしながら。
「何にしてもあたしは行くわ。このまま花の16の青春をゲームしながら終わらせるなんて許せないっ」
「そうよ、青春は二度と戻ってはこない。今、遊んでおかないと、一生後悔するわ」
「あんたは一生、後悔してればいいのよ。あたしは反対! 山奥の寺なんてカッコイイ男の子ひとりいないじゃないっっ」
それが本当の理由か。私とさつきは顔を見合わせる。