■ 遠い約束 ■
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「一体何があったのですか?」
サラの問いにフェザンは視線を落としてぶっきらぼうに答える。
「別に。ただケンカしてただけで」
いつもの喧嘩。いつもの殴り合い。それだけだった筈なのに。
フェザンの答えにサラは小さくため息をつく。
セレムは頭を打っていた様子で出血もしていたが、見た目ほどの傷ではなく、サラの治癒で瞬く間に傷口は塞がった。
「命に別状はなかったから良かったですが、これからはもう少し気をつけてくださいね。あなたは少々活発すぎる所があるようですから」
セレムとサラは同じ国の出身だと聞く。姉のように慕うセレムに、サラは姉以上に過保護だった。
そんな恵まれた環境のセレムに、フェザンは舌打ちする。
「乱暴なのはあいつの方だぜ。弱っちいくせに、殴りかかってきやがる」
「フェザン…」
サラが眉をしかめるのに、フェザンはそっぽを向く。
素直になれない自分に腹が立つ。
「俺、帰るぜ。ヒースのヤローに絞られて疲れてんだ」
「待ってよフェザン、心配じゃないの?」
横で黙って聞いていたマキアスが我慢できずに声をかけてきた。
マキアスはフェザンにくっついて入隊してきた幼なじみだ。
元々はフェザンと同じく剣を扱う者だったが、何を思ったか入隊してすぐにセレムにくっついて魔道を学び始めた。
「何で俺があいつの心配してやんだよ」
「フェザンにだって責任あるんじゃない。それに…」
フェザンは不審そうにマキアスを見やる。
「それに、何だよ?」
「…いいよ」
マキアスは拗ねたような顔をフェザンから背けた。そのマキアスに舌打ちしてから、フェザンはテントを後にした。
まだ眠ったままのセレムが気になって仕方がないくせに、その様子を見ることもできない自分に苛立ちながら。
一人になり、冷静になって気づく。何が気に入らなかったのかを。
夜ごとにセレムがレイヴァンの屋敷を訪ねているのは以前から知っていた。そこでしていることが何であるかも。
分かっていたのだ。
自分の気持ちが通じないことも。セレムが自分を振り向くことがないことも。
家の中でうだうだ考えても気分が悪いだけなので、屋敷へは帰らずにそのまま一日中馬を飛ばした。
そしてキャンプへ戻った頃には、陽は西に傾いていた。