■ 野犬 ■

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「おい、待て」

 荷物をまとめて玄関へ向かうセレムを、レイヴァンは慌てて止める。

「もう少し落ち着いて俺の話を聞けって」

「いういい。これ以上太子に付き合っていたら、僕まで変態の仲間入りだ!」

 怒鳴って、レイヴァンをにらみつける。

「変態ってなぁ、お前…。結構喜んでいたじゃないか」

 バシーンッ!

 容赦ない平手がレイヴァンの頬に飛ぶ。

 昨夜は手を縛られたまま、さんざん遊ばれた。

 朝日が昇っても飽き足らずに愚行を繰り返すレイヴァンに、一晩で身も心も疲れ果てた。

「レイヴァンには二度と近づかないから」

 セレムの言葉に、レイヴァンは小さくため息をもらす。

「そうか、お前に二度と触れられないわけなんだな」

 そう言ったレイヴァンの表情は見るも明らかに暗く沈んでいた。

 一瞬、気持ちが揺らぐが、これくらいいい薬だと、セレムはそのレイヴァンに背を向ける。

 途端、背後から羽交い締めにされた。

「このまま返すとお前は俺を誤解したままになる。お互い、もう少し理解が必要だ」

 何のことかと、セレムを捕まえたまま屋敷に引き返そうとするレイヴァンを見やる。

 口元に不遜な笑みが浮かんでいた。

「放してっ」

「いや、お前にはもっとよく俺を知ってもらわなくてはならない」

「い、嫌だーーーーーっ!」

 難無くレイヴァンの脇にかかえられると、セレムはそのままベッドルームへ逆戻りすることになった。

 軍へ帰れる日は、まだ遠かった。




   END





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