■ お初
寛也が風呂から上がると、ベッドの向こうに座って、背を向けた杳が待っていた。
「何だ、まだ寝てなかったのか?」
頼りなさそうな肩に声をかけると、ゆっくりと白い顔が振り向いた。薄暗いダウンライトに、それはいつも以上に白く、生めかしく見えた。
「眠れない…」
ポツリとそう言って、また背を向けた。どうしたのだろうかと思って、近づいていく。顔を覗き込むと背けるので、杳の座る隣へ腰を降ろした。
「どうしたんだ? また具合が悪くなったのか?」
なるべく優しく聞いてみる。杳と接するようになるまでの自分からは考えられないような態度。すると、ゆっくり顔を上げて寛也を見上げてきた。
見つめてくる瞳に、逃げられないように捕らわれた気がした。
トクンと、胸の奥で心臓が高鳴った。それと同時に、思わぬ所がデリケートな反応を示し始めてしまった。
これはまずいと思って、身を引こうとする寛也の腕を、杳の細い指がつかまえる。思った以上に強い力で引き戻された。その寛也の胸に、杳はしなだれかかるように身を寄せて来た。
「あ…あの…杳?」
薄いTシャツ1枚羽織っただけの杳。目線が高いため、白い首筋から鎖骨のラインが嫌でも目につく。それは寛也には、極限まで色っぽく見えた。その杳の細い身体を抱き締めたくて動こうとする腕を何とか思い止まらせる。そして元気になっていく下半身を何とか気づかれずに処理しようと、再びバスルームに向かおうと思った途端。
杳の小さい声が聞こえてきた。
「お願い…慰めて…」
ドキリとするようなことを言う杳に、寛也は自分の耳を疑う。
「慰めるって…あの…」
狼狽する寛也からそっと目を逸らすと、杳は寛也の見ている前でTシャツを脱ぎ捨てた。その下には、下着一枚まとっていなかった。
華奢だが、色香の漂うその身体に、寛也は思わず生唾を飲み込んだ。
「オレじゃ、いや?」
そう言って、また同じようにしなだれかかってくる。一糸まとわぬ姿で。
耐えられる訳がなかった。
「嫌な訳、ねぇだろ」
言って、抱き締めた。もう、迷わなかった。
* * *