「ホタルって、どこまで見にいくの?」
思ったとおり、選択科目2時間終えた放課後には、杳の機嫌はなおっていた。
終礼のホームルームを終えて帰り支度を整えていると、杳の方から寄ってきた。
恨めしそうに見やる佐渡の視線に気づいたが、無視した。
「県北。真庭の方だけど、結構有名な所らしいぞ」
「そんな所まで?オレ、今日は運転できないけど?」
「俺が連れてってやるよ」
疲れているだろう杳に、週末の放課後、長距離を運転させるつもりはなかった。バイクで走って片道2時間かかる距離だ。当然、初めから自分の特技を使う予定だった。
「暴走運転しないでよ」
「お前じゃあるまいし」
冗談で返して、睨まれた。空を飛ぶのだから、危険度はバイクの比ではないのだ。上空は風も強いだろうし、何と言っても、人間身の杳からすれば、飛行機の背に捕まっているようなものではないかと常々思っていたのだが。しかし、杳は平気で寛也の竜体の背に乗ってきていた。と言うよりも、進んで乗り物代わりにしていたのは杳自身の方だったのだが。
「ヒロの背中に乗るのって、久しぶりだよなぁ」
うっかり口走る杳の口を慌てて塞ぐ。知らない人間が聞いたらとんでもない勘違いをしそうな言葉であるから。なのに杳は、その寛也の手を叩き落とす。
「暑苦しいから触るな」
ひどい言われようである。佐渡の笑っている姿が目の端に映った。
運はあっても、なかなか手ごわい相手だった。
* * *