■MoonNightSymphony■
-番外-

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 その影は、いきなり空から降ってきた。




「うわああああっ!」
 頭上から聞こえた声に、エドガーは空を見上げる。そこに小さな人影を見つけた。
 ようやくに追っ手をまいて逃げ込んだ路地裏でのことだった。屋根の上から飛び降りたのか、その影はまっすぐにエドガー目がけて落ちてきた。
 とっさのことだった。
 受け止めようと差し出す腕。落下速度と相手の見た目の重量とをかんがみて、エドガーは地面に足を踏ん張る。
 ふんわり。
 一瞬その影は風に浮いたように見えた。途端、エドガーの腕の中にぽとりと収まった。思った程も衝撃はなかった。
 エドガーは腕の中に落ちてきた影に目を向ける。それは青い瞳の少年だった。
「…何だ、男か」
 エドガーは呟いて、ぱっと腕を放す。と同時に少年は地面へ尻餅をついた。
「何するんですかっ!」
「助けてやったんだ。礼くらい言えんのか」
 助けてくれたまではいいが、そのまま地面へ落とすことはないであろう。助けるならば最後まで面倒を見て欲しい。少年の勝ち気な瞳がそう訴えて、エドガーを見上げてきた。
 青い色が、たった今少年のいた空のように深く澄んでいた。それはまるで晴天から切り取られた空のかけらのようだった。
 自分とはひどく異質のものように思えた。
「…ありがとうございましたっ」
 少年はあまり有り難くは思っていない表情のまま、そう言った。
 それがその少年――ライムとの出会いだった。


   * * *


「旅の人ですか?」
 エドガーの出で立ちに、ライムは興味深そうな目を向けてきた。
「どこへ行くんですか?」
 助けたまでは良かったが、何を思ってかライムはエドガーの後をとことこ付いてきた。
 特に意味もなく立ち寄った町だったので、今夜の宿を取った後は早々に次の町を目指そうと思っていたエドガーだった。追っ手が多少気になりはしたが、腰に携えた大剣がある限り連中は近づけないだろう。
「もういいから、早く帰れ。目障りだ」
「帰るところなんてありません」
 ライムはにっこり笑顔を向けながら、エドガーにそう答えた。
「オレも旅をしているんです。そうだ、一緒に行きませんか?」
 ついさっき出会って、早々のその発想は何たることかと、エドガーは無視をする。するとライムはエドガーの正面へ回り込んで、こう付け足す。
「きっと役に立つと思いますよ」
 あけすけな笑顔に、一瞬怯みそうになるのを踏ん張って、エドガーは返す。
「邪魔だ、どけ」
 言って、ライムを押しのける。
 道連れなど必要なかった。これまでも一人でやってきた。夜の女も一夜限りだった。今更、ましてや少年など道連れにしたくなかった。
 それに、自分に同行すれば、必ず巻き込まれる。以前に愛した女は、魔の物に肉を裂かれ、骨を砕かれた。だからもう二度と誰も愛さないと誓った。
 それ以上何も言わず、エドガーはライムを後にした。
 まだ付いてくるかと思ったら、意外にもあっさりと引き下がった。


   * * *



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