■MoonNightSymphony■
-番外-

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「なぁに? またため息?」
 そんなつもりはなかったが、指摘をされてエドガーは女を見やる。
 酒場で知り合ったプラチナブロンドの彼女は、自ら近づいてきた。美しい外見と豊満な肉体。そして艶やかなまなざし。エドガーは二つ返事で彼女の言葉に乗り、一夜の宿を共にした。
 多くの言葉を綴る方ではない。ただ、暖かい寝床さえ得られれば良かった。だからエドガーは、根掘り葉掘り聞きたがる純真な町娘よりも、商売女の方を好んだ。
 そして今夜も常に違わず、寝床に潜り込めたと思っていた。
 女はゆっくりと上体を起こすと、エドガーの頬に指先を触れてくる。
「他のいい人のことでも考えていたの?」
「さあな」
 そうはぐらかし、エドガーは女に手を伸ばす。それを彼女はスルリとかわして、ベッドから起き上がった。
「秘密主義な人、好きよ。でもね、剣を持つ手は嫌い…」
 すらりと伸びた女の足元に、エドガーの大剣が転ぶ。それをゆっくりと持ち上げる。
「触るなっ」
 エドガーはベッドから飛び出し、女の手からそれを取り上げようとする。が、女は案外身のこなしが軽かった。エドガーの手を簡単に擦り抜けると、剣を手にしたまま、ドアの前へ逃げる。
「幾つもの獣の血を吸い、幾人もの人の肉を断ってきた魔剣。知っているわ。この剣がある限り、魔の物は貴方に近づけなかった」
 女はゆっくりと剣を鞘から抜き取る。
「何をする気だ?」
 エドガーの問いに女は艶やかに笑う。その顔は女のものではあったが、どこか魔の色をたたえていた。
「でも、知っていたかしら。この剣の弱点」
 月光を受けて銀色の光を放つ剣。
「人間の女の血を吸うとたちまちに錆び付いてしまう」
 ふふふと、女は笑う。妖艶な笑み。
「貴様は…」
 エドガーは女の方へ飛びかかった。剣を取り返そうと手を伸ばす。が、一瞬遅かった。
 女の首を引き裂く剣は、女の血を浴びて見る間に銀色の姿を赤茶けた衣で覆い隠していった。
 ふふふと、女が笑う。
「この者の役目は終わった」
 ゆっくりと崩折れる女の身体が、床に転がった。大剣が、カラカラと音を立ててエドガーの足元に落ちていった。
 そして、ゆっくりと女の身体から抜け出てくるもの――。
 女の背中がぱっくり開いて、そこから異形の物が姿を見せる。それは、宵闇に身を隠して生きる魔物だった。
『我が主の命により、うぬが命、もらいうけようぞ』
 血に飢えた牙と、鋭くとがった爪。
 近づいてくる魔物にエドガーは、脱ぎ捨てていた衣服の懐から小剣を取り出す。こんなもので対抗できる筈もなかったが、威嚇の真似事くらいはできる。
 エドガーは剣を構え、魔物を睨む。


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