■ 学校祭

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 そう広くない校舎を見て回るのはあっと言う間だった。ま、こんなもんかと思ったけど、口には出さなかった。

 結局、学校祭って言うのは、主体の生徒が楽しむものなんだと改めて思ったりして。

「君達、ミスコンに出るんだったっけ?」

 一通り見て案内してくれて、最初のベンチまで戻ってくると小早川さんが聞いてきた。

「はい。他校の生徒でも受付してもらえました」
「君達なら可愛いから、イイセン行くと思うよ」
「そんなぁ」

 口の軽い男って、余り好きになれないのよね。由加はそうでもないみたいだけど。

「でもまあ、優勝はムリだろうけど」

 ふと口を挟むのは三宅さん。

「どうしてですかぁ? もう決まっちゃってるんですかぁ?」

 由加、その口調はどうかと思うよ、私。

「決まったようなもんだよ。去年もダントツ1位だったし」
「出ればな」

 小早川さんが苦笑していた。

「えー、ここ、そんな可愛い子、いるんですか? だったら私、考えちゃうかも」

 それ、ポーズでしょ、由加。でも、さつきも私も傍観者。案の定、小早川さんが引っ掛かる。

「大丈夫だよ。優勝はできなくても、君、可愛いから、特別賞とか審査委員賞とか、他にもいろいろあるし。せっかく申し込んだんなら、出てみればいいよ」
「んー、どうしよー」

 顔を見合わせる私とさつき。さすがに、ウザいんですけど。

「あれ、美奈ちゃん?」

 ほとほと呆れていると、背後から名前を呼ばれた。何となく聞き覚えのある声に誰かと思って見返すと、そこに可愛い女の子が立っていた。

 ちょっとしたアイドルグループのセンターでもいけそうなくらい可愛い。でも、見覚えがない。誰だっけ? 首を傾げる私に、相手の子は困ったような顔をして。

「こんな格好してるから…僕だよ、杉浦浅葱」

 げっ。思わず引いてしまう私。

 そりゃあ、ものすごく可愛い子だと思っていたけど、何、これは!? それに、あんた、男でしょ? しかも、女装…って。

「お前、結崎のところの居候か?」

 小早川さんに聞かれて、杉浦くんはニッコリ笑顔。くらくらするんですけど?

「はい。Dブロック代表です」

 可愛すぎる。そう呟くのは、由加。私だって呆れるくらいだわ。思いっきり見とれちゃうわよ。何だか分からないけど、ものすごく悔しい気がする。

 と、今までのんびり構えていた小早川さんが、いきなり立ち上がった。

「おい、杳ちゃん、捜すぞ。予備の女子じゃ、勝ち目がない」

 うんと、うなずき合うのは三宅さん。

「ごめん。俺ら、用事ができたから、また今度な。楽しんでいってくれよな」

 そう言って小早川さんが駆け出した先は、校舎の方向。さっき寛也さんが向かったと同じ方向だった。

 あっと言う間に二人ともいなくなってしまった。何があったんだか。

 置き去りにされて、唖然とする私達3人。

 いや、それよりも。

 私は杉浦くんを振り返る。

「どうしてそんな格好してるのよっ? あんた、男子でしょ?」

 お約束どおり、由加とさつきが驚いてきくれた。二人とも目を剥いてるわ。そうでしょうとも。

「この高校のミスコン、男子でも出られるんだって」
「そうじゃなくってぇぇ」

 許せない。こんなに可愛いなんて。

「僕、転校生だから、頼まれると断り切れなくて」
「それをいじめって言うのよ」
「それは違うと思うんだけど」

 杉浦くん、人の良さそうな顔をして笑っちゃって。気が抜けちゃう。

「ま、いいわ。っとに、ミニスカートが似合っちゃって。その下、ブリーフ?」
「ちょっと、ちょっと、美奈ぁ」

 慌てる周囲。だって、悔しいんだもん。


   * * *



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