18-1 カキフライ定食ですね?
2000.1.8
新年早々関西への出張だ。この時期飛行機便の割引切符はなく、やむなく新幹線での移動と決意した。空港からの面倒なアクセスが無い分楽である。今日も指定された席の隣は綺麗な2人連れのお姉さんだったが、ちょっと歳がいっているかなぁ?まぁ、むさ苦しいオッサンよりはるかにいいや!通路側の席なので外の景色は楽しめない。我慢していた煙草を吸いに喫煙車に赴いたが、こちらの車両はガラガラで比較的空気も新鮮だ。綺麗なお姉さんの隣の席と、景色が見えて煙草も吸える席とを天秤にかけてみた。意外に思われるかも知れないが私は後者を選択した。元の席に荷物を取りに行き、喫煙車へどっぷり腰を据えた。列車は浜名湖辺りを通過。大阪まではかなりある。平野部の景色はあまり面白くない。田んぼには「727」や「タンスにゴン」のお決まりの看板。景色を楽しんでいても時折現れる車内の売り子のお姉さんに視線が傾くのは悲しいサガだ。京都を過ぎると車内は人気が全く無くなった。

新大阪ではいつもの立ち食いうどんを見送り、梅田で昼食を採る。喫茶店でウェイトレスに「エビフライ定食」と頼むが「えっ?カキフライ定食ですか?」と聞き返され「エビっ!」と大きな声で注文したら「エビフライ定食にカキフライ定食ですね!」と繰り返しやがった。「なめとんのか、ワレ?2つも頼むか?」と言いたかったが、かわいそうなので止めた。前回使いかけのラガール・カードをさり気なく改札機に入れる。目指すは宝塚。どの辺りが大阪と兵庫の府県境だか未だに判らない。どうやら河川が境でもないらしい。目的の清荒神駅に着く。いつもと違い活気があり賑やかだ。近くにある清三宝荒神への詣でらしい。駅改札を出ると屋台も出ていたが、私は反対方向の踏切を渡りベガホールに足を向けた。ホールのロビーで煙草を吸いながら関西支部長を待つ。開演5分前に支部長登場。

2人仲良く後方に座る。いつ見てもここのオルガンは薄っぺらに感じる。まるで壁紙に描かれた様なオルガンだ。今日の演奏者は松原晴美さん。この方のお名前は西日本の演奏会では良く目にするが、私は今回が初めてだ。曲目は20世紀に活躍した作曲家のオルガン音楽。ウィットロック、ヴォーン・ウィリアムス、デュプレ、メシアンら演奏会でも良く耳にする作品に、アイブス(「愛撫す」ではないよ!)、ヨン、リンドベルク、ペーテルスなど演奏会では殆ど聴いた事の無い作品。この様なテーマを持ったプログラムもなかなか面白い。演奏の方はアシスタントとの呼吸が合わなかったらしく、所々、音色の変わり目が思い通りに行かず残念であった。

演奏者が楽屋から出てくること10数分。ロビーに現れた松原さんにサインを求めると「もしかして本当にわざわざ来られたんですか?」との言葉に「そうです、わざわざ!」と答えた。実はこの人には、スイスで「変な男の人がサインを求めにやって来るかも知れないが、嫌がらずにサインしてやって下さい」と某オルガニストが頼んでおいてくれたのです。

神戸元町の中華街で支部長と2人で夕食を採り(松原さんと2人だったら良かったんですがネ)再び列車に乗り支部長宅の小高い丘に建つマンションへと向かう。部屋に入りカーテンを開けると眼前に明石海峡大橋が迫る。遮る物は何も無く、巨大スクリーンに映し出された個人シアターだ。虹色に輝き遙か先小豆島へと吸い込まれる様に続いている。最高のロケーションだ。下手なホテルよりよっぽど眺めが良い。支部長がこの夜景を武器に綺麗なお姉さんを口説いているかどうか、定かではない。が私ならそうする!

つづく 

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