16 羽衣の天女
1999.11.7
スケジュール帳を見ると日曜だというのに珍しくオルガンの演奏会がない。さて、休みをどう過ごそうかと、さりとて彼女が居るわけでもなし・・・と考えつつも二度寝に入る。ふと、宇都宮松が峯教会の名前が脳裏をかすめた。そういえば11月の日曜に演奏会があった記憶がする、と自分の作ったコンサート便りを引っ張り出し確認する。案の定、今日であった。しかも15時半からなので今からでも充分に間に合う。アポ無しでも入場できるだろうとタカをくくっていたが、一応教会に確認の電話をしてみる。あと2,3枚しかありませんが・・・の返答に「チョンガー1枚予約お願いします!」と電話を切る。今からでも風呂に入って快速電車で充分間に合うだろう。

宇都宮駅から西へ歩くこと約15分、派手な看板を掲げたいかがわしい店が立ち並ぶ一角に、大谷石で築き上げられた建物が堂々と立ち、遠くからでもカソリック教会であると確認できる。開演30分前に会堂に入るが既に7割の入りであった。オルガンは会堂正面に鎮座していたが祭壇の処に新たにモニュメントが作られそれがオルガンを邪魔して全容を伺い知れない。それでもタワーの中心となるパイプにはデザインを施しているのが判る。開演時間ともなると会場はすし詰め状態になってしまった。夕陽が窓から射し込み会堂をオレンジ色に染め、壁のアルコールランプの灯がともされる。演奏はオルガンが花井哲郎氏、それにカペラという混声合唱である。2,3度聴いたことがある。おそらく祐天寺の聖パウロ教会であったと思う。演目はグリニーやジョスカン・デ・プレを中心とした音楽だ。会堂は思っていたほど残響はなく、そのかわり、優しい響きを直接聴かせてくれた。合唱は、澄んだ歌声がまるで空をさまよう様に絡み合い、美しいハーモニーを作り出す。

演奏終了後にオルガン研究会の松沼氏に声を掛け、ここのオルガニストであるお母様を紹介して戴き、オルガンを間近で見学させて貰った。アルビーツのオルガンは日本に3台(でしたっけ?須藤さん)あるらしく、宇都宮、田園調布と板橋にほぼ同時に導入された。しかし、ここのオルガンのコンソールは輸送中に水を被ってしまい作り直した為に、完成(設置)はよそより少し遅れたそうです。コンソールはパイプ群と独立しオルガニストはパイプを背にして会衆の方を向いて演奏するようになっていました。会堂を出ると辺りは既に暗闇となっており、美しいハーモニーに酔いしれた私は、羽衣の天女の如く空をさまよい、いかがわしい看板へと吸い込まれて行きました・・・?


宇都宮松が峯カトリック教会オルガン仕様
製作:アルビーツ(西ドイツ)
設計:W.アルビーツ
調整・整音:須藤 宏、E.オテス
設置年:1978年3月

Hauptwerk C-g'''
Principal 8'
Spillpfeife4'
Oktav4'
Gedecktflote4'
Quinte 2 2/3'
Waldflote 2'
Mixtur III-IV
Trompet 8'

Brustwerk C-g'''
Gedeckt 8'
Rohrflote 4'
Nasat 2 2/3'
Principal 2'
Terz 1 3/5'
Quinte 1 1/3'
Oktav 1'
Krummhorn 8'
Tremulant

Pedal C-f'
Subbass 16'
Pommer 8'
Choralbass 4'
Rauschbass II
Fagott 16'

II-I, I-P, II-P
Mechanical key action
Electric stop action
4 combinations,  Pleno
21 stops, 1244 pipes

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