12-2 探検家に招待状 |
1999.4.10 |
桜が開花する頃、大学当局よりオルガン探険家宛に招待状が舞い込んだ。「どうか我々のオルガンも視察して下さい」と・・・「仕事の依頼か」と、本日足を運んだのは甲南女子大学の芦原講堂である。あの阪神大震災で倒壊してしまったマルクーセンオルガンが今日再び同一図面で復元され、それを記念してのサットマリー氏による演奏会がここで開かれる。
講堂入口で本日のプログラムを手渡され、指示のままに階段を下る。エントランスホールは既に3階なので、1階席はつまり地下2階の感覚だ。ホールに入ると8チャンネルのテレビ局が会場の模様を撮影していた。オルガンはステージ奥のテラス上に設置されているので私の席(1Fの中央最前列)からは見上げる格好になる。アルファベットのMを型取ったオルガンケースの中央凹部に15ストップのスウェルが天に昇る様に置かれている。大震災で倒壊した時の写真を見る限り、オルガンはテラスから折り重なる様にステージに崩れ落ち、押し潰されたオルガンケースの上にスウェルだけがかろうじて原型を留めていた。 今回は外形デザイン、ストップリスト全てが震災前と同じ仕様だが、変更箇所はコンビネーションが256から5120通り、クレッシェンドペダルが28段階となり、そしてオルガン全体を鉄骨で支えホール壁面に固定したという点である。 演奏前のセレモニーでマルクーセンの社長と副社長(社長の長女)が紹介されそしてサットマリーが日本人の奥さんを従えてステージに現れた。今回はこのオルガンの為だけに来日したそうだ。少し年を取ったかな?との印象だが、はたして演奏の方はどうだろうか? 曲はフランクの英雄的小品から始まった。出だしの音は何かバランスの悪い音に感じとられたが、ストップの使い方のせいだろうか?ホールの響きは私の席からは「天井から降り注ぐ」のではなく、「天井に音が昇って行く」様に感じた。残響は想像していたよりは長くない。1700名程入る客席が満員のせいであろう。全体的な響きとしては福島のマルクーセンの方が私は好きだが、決して悪いと言うわけではない。 曲はバッハのパッサカリア、大フーガへと続くが、興味を惹かれるのはなんと言ってもサットマリー氏自作の「ミクスチュア」であろう。私にとって前衛的音楽は好きではないが、この曲は意外と聴くに耐えられる。音の魔術で観客を魅了する。言葉では表現出来ないが、どの様にして音を造っているか間近で見てみたいものである。(ストップ半開き?)エンディングはリストの「アダージョ」と「バッハの名による・・・」で締めくくられたが、いまいち精彩を欠いた演奏に感じられたのは私だけであろうか? 演奏終了後は有り難い事に、テラスに上ってオルガン見学会と相成った。順番を待つこと30分。膝上のスカートを履いた女性オルガニストの説明には目のやり場に困ったが、ここぞとばかりにオルガンの細部の写真を撮りまくる。裏に廻るとオルガンはしっかりと壁に固定されていた。(壁がもろければそれまでだが・・・) 新しく生まれ変わったオルガンがいつまでも元気で声高らかに歌えるように祈りつつホールを後にした。外は名残惜しそうに、天からの雨。やがてこの雨も帰宅する頃には私の街を濡らすのであろう。
甲南女子大学芦原講堂オルガン仕様 製作・組立:マルクーセンオルガン製作所(デンマーク) 設置年:1998年12月 I Positiv C-g''' Praestant 8' Gedakt 8' Principal 4' Blokflojte 4' Nasat 2 2/3' Oktav 2' Waldfloite 2' Terts 1 3/5' Quint 1 1/3' Scharf IV-V Cromorne 8' Tremulant II Hovedvaerk C-g''' Principal 16' Oktav (I-III) 8' Hulflojte 8' Rorgedakt 8' Oktav (I-III) 4' Spidsflojte 4' Quint 2 2/3' Oktav (I-III) 2' CornetV(ab f) Mixtur VI-VII Dulcian 16' Trompet 8' Trompet 4' Tremulant III Brystvaerk C-g''' Traegedakt 8' Quintaton 8' Kobbelflojte 4' Principal 2' Gedaktflojte 2' Sivflojte 1' Cymbel II Regal 8' IV Svellevaerk C-g''' Bourdon 16' Flute Harmonique 8' Flute a cheminee 8' Salicional 8' Voix Celeste 8' Prestant 4' Flute octaviante 4' Nasard 2 2/3' Octavin 2' Tierce 1 3/5' Plein Jeu V Basson 16' Trompette 8' Hautbois 8' Clairon 4' Tremulant Pedal C-f'' Untersatz 32' Principal 16' Subbas 16' Oktav 8' Gedakt 8' Koralbas 4' Rorlflojte 4' Nathorn 2' Mixtur VI Kontrafagot 32' Basun 16' Fagot 16' Trompet 8' Skalmeje 4' Key action: Mechanical Stop action: Electric 61ストップ、パイプ数:4349+8 |