四谷の紀尾井ホールへ、ゲリー・カー(コントラバス)のリサイタルに行きました。久しぶり に、幸せな気分に浸りました。何せ、15年振りに生で聴いてしまったのです。 Gary Karr (コントラバス) Harmon Lewis (ピアノ) ゲリー・カーは、1980年に初来日して以来、数年間は毎年のように来日していました。私が コントラバスを奏り始めた1981年頃には、来日する度にレコーディングを行ない、数枚の日 本録音盤が発売されていました。当時はまだLPレコードの時代であり、「初回限定プレス重 量版」などというものを、嬉々として買い漁っていました。 ゲリー・カーは、来日すると、良いホールと良い聴衆が居るところには、結構田舎でも公演 を行なっています。1980年代前半〜中盤の学生時代、彼の京阪神での公演時には、私は 「追っかけ」と化しておりました。1983年の実況録音盤「ドボルザークのチェロ協奏曲」の現場 に居た記憶と、「Gary Karr」のサイン入りのコントラバスの駒が、今でも私の宝物です。 1972年以来の伴奏者ハーモン・ルイスは、バロック研究で博士号まで持っている人で、ピ アノ、オルガン、ハープシコードを弾けるので、パイプ・オルガンのあるホールは彼らのお気 に入りです。でも・・・就職以来私が居た、名古屋・浜松・札幌には、来なかったのヨネ〜。少 なくとも、私が居た時期には・・・。東京では、来日すると必ず公演があるというのに・・・。 というわけで、学生の時以来、15年振りでした。
先ず、外見は髪が白くなったナ〜、というのを感じました。CDのジャケット写真を見て、解 かってはいましたが、生で見ると・・・ゲリー・カーも、来年は還暦になるのですから、当然 か・・・自分も歳をとったことだし・・・。 演奏は、今や円熟の極みといっても良いと思います。とにかく、良く歌うベースです。彼は、 超絶技巧を感じさせず、フレーズを歌わせるために必要な技巧だけを用います。そして、表 情・顔・仕種・時には声を用いて、聴衆を楽しませます。また、演奏中も客席を見回して(左 右の2階席まで見ていました)、聴衆が楽しんでいることに、常に気を配っていました。 伴奏のハーモン・ルイスとの呼吸も、完璧でした。15年前は、時には微妙に呼吸が合わな いこともありましたが、今回は、ゲリー・カーがどんなリタルダント、ア・テンポをかけても(そ れも聴衆の反応を見ながら)、合っているのです。
プログラムには、日本の歌曲を含んでいましたが、1985年来日時に「荒城の月」と「浜辺の 歌」を吹込んで以来、現在までに2枚の日本の歌のCDを出しており、1980年代とは全く解釈 が違う、良く歌い込まれた演奏でした。また、ベートーベンのソナタにおけるハーモン・ルイス の解釈は、私には非常に斬新に感じられ、ピアノだけを専門としておらず、研究者でもある 彼の面目躍如たるものがありました。 プログラムの最後のパガニーニの主題による「変奏曲」や、アンコール(何と4曲も演奏)で 演奏した「スケルツォ」などは、1970年録音のLP盤でしか録音が無いものでした。当然、当 時とは全く解釈の異なる演奏で、余裕と深みが増していました。今の解釈の録音を是非残し てもらいたいと、切望します。 |