川辺川からの報告

熊本県弁護士会 国宗直子

 

 今、熊本では連日川辺川ダム関連の記事を新聞で見ない日がない。川辺川ダムを巡る情勢はどんどん変化している。「いい方向に」だと私は思っている。

<住民討論会>

 熊本県は昨年から、川辺川ダム建設をめぐって住民討論会を開催している。すでに2回行われ、もうすぐ3回目が開かれる。潮谷熊本県知事は、この開催に当たっては一貫して「国土交通省は説明責任を果たせ」と言っている。

 4月に国交省河川局の竹村公太郎局長が、「討論会の議論の行方と本体着工は別次元の話だ。住民討論会の結果とは関係なく事業は進める」と発言した。当然各方面からの批判が相次いだ。知事も不快感を示したらしい。5月7日、竹村局長は「誤解を与えた」として事実上発言を修正。「住民討論会はガス抜きのためにやっているのではない。住民討論会の推移などを総合的に判断して手続きを開始する」と。

<県内意識調査>

 3月から4月にかけて地元紙が県内の有権者1500人(無作為抽出)を対象に意識調査を行った。5月にその結果が公表された。本体着工すべしが8・9%だったのに対し、「計画自体をとりやめるべきだ」26・0%、「論議が尽くされるまで本体工事を見合わせるべきだ」28・9%。合わせると54・9%の人が中止・見合わせの回答となった。

<漁業権の行方>

 球磨川漁協は、ダム反対派の健闘で国交省との補償交渉に応じないままだ。この形勢を何とかしようとダム推進派は、新たな組合加入者を400人近くも作った。しかしそれでも5月の総代選挙では、ダム推進派は国交省との交渉を承認するのに必要な3分の2の勢力を確保できなかった。

 漁協が補償交渉に応じないのであればと、国交省は漁業権を収用すると言って、熊本県収用委員会に収用裁決を求めている。国は簡単に収用裁決が出ると思っていたのかもしれない。しかし、ことはそう簡単ではなくなっている。収用委員会は漁業権の帰属(漁協か個人か)について慎重に検討を進めると言うのだ。結論は今すぐには出そうもない。

 3月19日、日弁連は、国は収用裁決申請を取り下げて、もう一度計画を見直せとの会長声明を公表した。

<ダム反対派市長誕生>

 八代市は川辺川の本流である球磨川流域で最大の都市だが、ここでも異変が起きた。強力なダム推進派の市長が汚職で逮捕され、4月7日に行なわれた市長選挙ではダム建設を見直せという新市長が誕生した。

<川辺川利水訴訟>

 一昨年地裁で敗訴した利水訴訟は、福岡高裁で審理が続けられている。5月末に、福岡高裁の裁判官による事実上の検証と現地尋問が行われ、改めて同意聴取の手続の杜撰さが浮き彫りにされた。昨年の高裁の第1回弁論では裁判長の示唆により法廷を舞台にビジュアルな弁論が繰り広げられた。このときに作成したビデオ「ダムの水はいらん!」が、東京ビデオフェスティバルでグランプリを受賞した。今原告団はこのビデオを売り出しているが、飛ぶように売れている。必見!1本1500円。

 情勢は、ガラガラと音を立てながら流れているように思える。

 川辺川は、今ちょっと目が離せないのだ。