川 辺 川 利 水 訴 訟 結 審

 

川辺川利水訴訟弁護団事務局長

弁護士 森 徳和

 

1 国を圧倒した意見陳述

 1月24日(金)午後1時30分から福岡高裁で結審弁論が行われた。原告(控訴審の裁判であるが、原告と表記する)は、原告本人2名、弁護士9名の合計11名で意見陳述に臨み、裁判の争点についてそれぞれ意見を述べた。

 これに対して、国(被告は農林水産大臣であるが、国と表記する)は、土地改良事業の必要性について、ダムから水が来れば付加価値の高い農産物が生産できるという説明を行っただけで、最大の争点であった受益農家の3分の2以上の同意が得られたかどうかについては、一切意見陳述を行わなかった。これは、控訴審における審理を通じて、ずさんな同意取得の実態が明らかになったため、さすがに国の代理人としても、同意が適法に得られたという意見陳述をすることに躊躇したためと考えられた。

 このように、結審弁論における意見陳述は、原告が国を圧倒し、傍聴人の目にもその優劣は明らかであった。

 

2 結審をめぐるかけひき

 福岡高裁は、当事者双方の意見を聞いたうえで、1月24日に結審するために審理予定を立てた。昨年12月26日には、同意取得担当者の証人尋問が実施され、原告は、結審までの1ヶ月足らずの間に最終準備書面をまとめて提出するという超過密スケジュールを実行する計画を立てた。

 ところが、国は、12月26日の証人尋問後に開かれた進行協議の席上で、突然同意率を計算する基礎(分母)となる受益農家の数が増加する可能性があるので、結審を5ヵ月間程度延ばしして欲しいと申し出た。もともと国は、受益農家の数について十分に調査を行ったうえで、同意取得を行ったと説明してきた。国の申し出は、これまでの国の主張を根底から覆すものである。国は、そこまでして裁判の引き伸ばしを図り、まさに捨て身の戦術に出た。

 国の引き伸ばしの背景には、次のような事情があった。国土交通省は、ダム本体着工の障害となっている漁業権を強制収用するため、一昨年12月に熊本県収用委員会に申し立てを行っていた。昨年12月頃には、収用委員会の裁決が今年春頃には出されるという観測が流れていた。また、川辺川の本流である球磨川中流域最大の自治体人吉市では、統一地方選挙の際に市長・議会の同時選挙が行われることになっており、ダム推進派市長の当落が話題になっていた。このような状況のもとで、国は、劣勢に立っている川辺川利水訴訟の判決を先送りして、強引にダム本体工事に着手しようとしていたのである。

 原告は、国の引き伸ばしを厳しく批判するとともに、予定どおり結審することを強く求めた。その結果、裁判所は、合議のうえ1月24日に結審することを決定した。

 それにもかかわらず、国は、裁判引き伸ばしの策動をあきらめなかった。結審弁論の直前に行われた進行協議の席上で、国は、受益農家の数の調査結果を今年4月初めに提出するので、弁論を再開して欲しいと申し出てきた。4月初めには、裁判所の構成が変わることも予想されており、この時期に弁論再開を申し出ることは、裁判の引き伸ばし以外考えられない。

 原告は、再び国の姿勢を厳しく断罪したが、裁判所も動揺せずに、弁論を終結して判決期日を指定すると明快に述べ、弁論再開の申し出に対しては、仮定の話には回答できないと一蹴した。

 このように、国は、結審当日まで裁判の引き伸ばしを図った。弁護団のなかには、裁判所が判決期日を指定しないのではないかと危惧する意見もあった。しかし、裁判所は、判決期日を5月16日(金)午後2時と指定した。結審をめぐる激しいかけひきのなかでの判決期日指定に、裁判所の並々ならぬ決意が感じられた。

 

3 勝訴判決を勝ち取るために

 判決期日は指定されたが、勝訴判決を勝ち取るためには、新たな運動に取り組まなければならない。判決を挺子に土地改良事業を中止させるためには、国に上告断念を決断させなければならない。そのために、無駄な公共事業は止めろという国民世論を高めるとともに、超党派の国会議員を組織して土地改良事業中止の政治決断を国に求めていく体制を組む必要がある。

 土地改良事業が中止されると、多目的ダムとして計画されている川辺川ダムについても、かんがいという主要な目的が失われたことにより、見直しが求められる。

 九州では、現在「よみがえれ有明海訴訟」が起こされ、諫早湾干拓事業の見直しを求めている。川辺川利水訴訟は、公共事業をめぐる数々の裁判に大きな影響を及ぼす裁判として注目されている。

 これから5月の判決まで、更なる闘いが待ち受けている。