No.10 |
弁護団つうしん |
発 行 |
和解交渉すすむ! これまでに281人が和解成立 今月はさらに大量和解
次々に成立する和解 熊本地裁 01.7.19 photo
by Inao 7月16日、法務省との交渉の結果、東京地裁が基本合意に関する和解勧告が行い、翌17日、東京地裁で原告と被告国の双方がこれを受け入れることに合意しました。 この基本合意に基づき、7月19日で94人についての和解が成立しました。これを皮きりに、各地の裁判所でも具体的な和解の手続きが進んでいます。 基本合意はその後7月23日に正式に全原協会長と厚生労働大臣との間で調印されました。 7月27日の弁論ではさらに187人について和解成立しました。 次回8月13日には、大量の和解が成立することが見こまれています。 |
勝利和解にあたって 西日本訴訟弁護団代表 八 尋 光 秀 7月19日、熊本地方裁判所において、ハンセン病違憲国家賠償訴訟全国原告団協議会と国との間で、5月11日熊本判決が示す国の法的責任を踏まえて、国が謝罪広告、真相究明を含む恒久対策をとり行う旨を約束した基本合意を締結するとともに、同訴訟第2陣原告94人について、賠償金等の一時金支払いを内容とする和解を成立させた。また、今月中にも、入所歴なきもの、提訴時遺族をのぞく2250名の原告について、司法解決実現の見通しがついた。 熊本判決を受けて国が成立させた補償法により、およそ2000名の被害者が8月中にも補償金の支払いを受けることが予想できる。この補償法にもとづく被害回復もまた、熊本判決の成果である。 熊本判決の言渡後、2ケ月余りで4000名をこえるハンセン病政策の被害者に対し、人生被害の一部を填補する賠償金及び補償金の支払いがなされるに至ったことを評価したい。この間の、国会両議院議員、内閣、法務省、厚労省、そして東京、岡山、熊本三地裁の関係者の方々の並々ならぬご努力に心より敬意を表する。 しかし、原告らが、国の誤った法と政策によって、受け忍ばざるをえなかった人生被害はあまりにも深く重い。 いまだ、この人生被害を回復するための第一歩が始まったにすぎない。 国は引き続き、厚労省だけではなく、国会、内閣をあげて、賠償法理にもとづき、原告らの人生被害を回復するための原状回復政策を策定し、実施することに全力を尽くすべきである。 また、熊本判決において直接言及されなかった、入所歴なき被害者、提訴時遺族らの請求については、なお協議を継続し、早急に被害回復に努めなければならない。
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裁判所が「所見」を公表 遺族原告・入所経験のない原告も救済すべき かねてから、被告国は、「遺族には賠償金を支払わない、未入所原告についても今後の検討に委ねる」としており、基本合意の中でもこの問題での合意は留保されていました。 7月27日に弁論では、遺族原告の1人が意見陳述を行いました。 「私を出産するために園を逃走した母は、私が4歳の時強制収容された。」「父の古い戸籍を見たとき胸がつまった。父は戸籍の名前を園名に変えていた。初めて見る父の本名には私の名前の1字があった。子を思う父の思いを初めて知った。」「もし遺族原告の訴えが聞きいれられないのであれば、両親のこの無念は誰が晴らすのか。」 遺族原告のこの切々とした訴えのあと、裁判所は所見を表明しました。 所見の内容は、@相続原告については相続法理に従って解決すべき(つまり相続分に従って請求を認めるということ)、A入所経験のない原告も5月11日の熊本地裁判決の内容に従えば損害賠償請求権を有している、というものです。 国は、この所見の内容を検討することを約束しました。 これで、西日本訴訟のすべての原告について、和解が成立する見とおしが生れました。 |
(資料:裁判所「所見」全文) 「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟 和解に関する所見 平成13年7月27日 熊本地方裁判所民事第3部 確定した熊本地方裁判所平成13年5月11日判決を基準として,これまで相当数の原告らと被告国との間で和解が成立したが,当裁判所は,和解解決に向けて関係当事者各位が多大な努力をされたことに対し敬意を表する。 残された問題についても,次のような基本的観点に基づき,関係当事者各位の努力により,和解による全面的な解決が図られるべきである。 1 遺族原告について 提訴前に死亡しているハンセン病患者であった者の相続人である原告(遺族原告)についても,本件事案の特殊性に鑑み,種々考慮すべき事項はあるとしても,基本的には,相続法理に則り和解解決が図られるべきである。 2 入所歴なき原告について 上記熊本地裁判決は,原告全員が入所者であったため,未入所者に則した判断を明確には示していないが,被告国の従前のハンセン病政策がらい予防法(新法)の存在とあいまって,ハンセン病患者に対する差別・偏見の作出・助長に大きな役割を果たしたことを判示した上,損害賠償の対象となる共通被害の範囲については,療養所への隔離の被害に限定せず,ハンセン病患者がハンセン病に対する誤った社会認識(偏見)により様々な差別的取り扱いを受ける地位に置かれたことによる精神的被害を含めて判断している。療養所への入所歴のないハンセン病患者・元患者も上記精神的被害を被ったと認められるから,上記熊本地裁判決に従えば,入所歴なき原告も国家賠償請求権を有すると解すべきである。もっとも,入所歴なき原告は,療養所に実際に隔離されていなかったのであるから,被害の程度については入所者と差違があると見るべき場合が多いと思われるので,入所者に対する和解金額との均衡を考慮しつつ,発症時期等の諸般の事情を勘案した和解金額が合意されるよう更に協議して,和解解決が図られるべきである。 |
国の法的賠償責任に基づく 司法解決ルール、ついに完成!
熊本判決の光をすべての原告に 5月11日に画期的な熊本地裁判決がくだされ、5月25日に歴史的な控訴断念の結果、判決が確定しました。常識的には、これですべて解決するようですが、そうではありません。確定判決の存在は非常に強固ではあるものの橋頭堡を確保したのみで、解放への第一歩にすぎないのです。なぜなら、確定判決の対象は、司法の建前からして、西日本訴訟原告127人を対象とするのみだからです。熊本地裁判決による解決(救済)対象をすべての原告に行き渡らせるためのルール作りが別に必要でした。 補償法による国の巻き返し始まる 他方、判決確定と同時に、国・厚労省側の厳しい巻き返しがはじまりました。その最大の武器は、補償法の制定、施行でした。補償法自体は、被害者全員に対する判決と同額の金銭給付を目的としているため、それ自体原告団の闘いの成果です。しかしながら、同法が訴訟派と非訴訟派の分断、切崩策として用意されたことも明らかです。また、国の法的責任を曖昧にしているため、国の責任に基づく賠償金を勝ち取るか、法的責任を曖昧にしたままの「施し」としての金銭給付に甘んじるのかという理念的な色彩の濃いたたかいが残されました。 司法解決ルール形成へのたたかい 司法解決ルールを交渉する際の当方の最大の障害は「時間」でした。補償法が6月22日施行され、7月中にも認定審査会が開催され、支給がなされる見通しでした。司法解決を補償法支給よりなんとしても遅らせるわけにはいかなかったのです。 補償法成立前である6月13日、法務大臣官房長と交渉し、法務省を窓口とする司法解決協議の場を設定、法務省交渉団を結成し、6月18日、27日、7月2日、4日、6日、9日、11日、13日と超過密スケジュールで激しいやりとりを繰り広げました。 こうして双方受け入れ可能なまでに議論が熟したところで、7月16日、東京地裁が基本合意案を勧告し、17日、厚労大臣が閣議後の会見でこれの受け入れ表明、同日、東京地裁における双方受諾、19日、熊本地裁勧告、双方受諾、23日、曽我野全原協代表と坂口厚労相が正式調印という運びになりました。 この基本合意に基づき、19日熊本地裁において初の和解が94人について成立しました。 司法解決ルールと今後の課題 司法解決ルールに関する基本合意は、@謝罪の大枠設定、A一時金支給のルール化、B恒久対策の法的基礎付け。この3つの柱からなっています。 司法解決ルールが確定したことにより、@原告団の団結の維持、A過去及び将来の活動費の確保、B司法解決コストの国側負担などのほか、なによりC全面解決のための法的基礎付け作業が終了しました。この基礎工事の上にどれだけ立派な家を建てるかは今後の厚労省協議にかかっています。より一層の団結によりこの課題を解決しましょう。 |
5/29 弁護団会議(福岡) |