川辺川利水訴訟

農民は判決をどう受け止めたか

弁護士 国宗直子
 2000年9月8日、熊本地裁は、川辺川利水事業に対する農民らの異議申立を棄却・却下した農水大臣の裁決の取り消しを求める裁判で、行政の手続きの中に瑕疵があったことは認めつつ、これらを軽微な瑕疵とし、行政の広範な裁量権を認めた上で、土地改良法の要求する対象農家の三分二の有効な同意があったとして、農民らの訴えを退ける判決を下した。農民はこれをどう受け止めたか。幾人もの農民の声をひとつにまとめてみた。


 裁判所の言わすことはようわからんばい。
 今農家には後継者のおらん。年寄りばっかりの農業たい。わっかもん(若い者)のおったって、農業の先行きはわからん。減反政策は拡大さるっし、農産物の価格は低なるばっかり。それでん、農業ばやめるわけにはいかんけん、これまででん構造改善事業や水路の改修に大ぎゃな金ばかけてきた。もう農家にはこれ以上金ば払う余裕はなかばい。
 だけん、わざわざ金ばかけてまで水はいらんて言うた。
 わしたちが、自分からいらんて言うとに、裁判所は「いらんことはなか」て言わす。
 裁判所はわざわざ、今わしたちが使いよる水路ば見て回らしたつに、一体何ばあの目で見らしたつだろか。
 わしは、裁判に補助参加したつばってん、裁判所は、判決のときにわしの補助参加は認めるち言わした。こん時認められた補助参加は、971人もおっとばい。三条資格者の中で、原告は611人。合わすっと1582人ばい。三条資格者の40.5%にもなっとばい。裁判所は、こっだけの人間が「水はいらん」て言いよるとば、ちゃんと知っとったていうことじゃろがい。なんで、こっだけの人間に水ば押し付けなはっとだろか。土地改良事業は農家からの申請事業じゃなかったつか。こっだけのもんが反対しとって、三分の二以上の同意があったて、裁判所は本気で考えとらすとだろか。
 一番納得いかんとは、錯誤ば認めてもらわれんだったこつばい。
 わしのところには、地元のもんと役場の人の来らした。「ただで水の来るとばい。金はかからん。迷惑はかけんけん。」て言わした。最初は何かようわからんだったけん相手にせんじゃった。ばってん何べんでん来らすけん印鑑ばついたたい。とこっが後で聞いてみっと、金のかからんとは国の本管ば作る工事ばっかりて言うじゃなかか。本管の維持・管理とか、うちの田んぼまで水ば引く関連工事にはわしたちの負担のあっとぞ。そぎゃんこつは裁判の始まるまでわしは知らんだった。
 金のかからんていうとは嘘じゃなかか。行政は嘘ばついて良かっだろか。行政の裁量権ていうとは嘘ばついて農民をだましたっちゃ良かていうことだろか。
 こぎゃん行政はあてにならんけん、わしも裁判に参加した。裁判所なら、行政ばやっつけてもらわるって思とった。
 ばってん、裁判所もあてにならんばい。わしの印鑑ついた分も、「有効な同意」ていう数の中に数えてしまわした。
 こぎゃんこつは納得いかんていうて、原告の人たちは控訴ば決意さした。
 当たり前ばい。裁判所がどぎゃん言わしたっちゃ、わしたちはもう事業にかたる(参加する)気はなか。もう農業はどぎゃんもならんばい。農業に見きりつけて外に働きに出とる息子たちに負担ば残すわけにはいかんけん。原告が高裁でたたかうとなら、わしも付き合うばい。
 12月3日、相良村でダム反対の集会のあった。わしも行ってみたばってん、たまがったばい。利水裁判のもんとか川辺川ダム反対のもんとか、700人ぐらいは集まっとった。小さか村にこっだけの人が集まったとばい。
 民主党からは菅さんの来とらした。ほかにも共産党、社民党から国会議員の来らした。弁護団の板井先生の話もようわかったばい。
 まだまだ、あきらめんばいて思た。仲間も大勢おる。まだまだ、頑張らるっだけ頑張ってみるばい。