控訴理由書

第一 はじめに

本控訴理由書の提出にあたっては、川辺川利水訴訟原告団長で本件控訴人の一人でもある梅山究は、このように述べている。

 「この訴訟案件は、私ども農業者を対象とするわが国農業の中枢かつ最高行政機関たる農林水産大臣が行った行政措置に対するものです。すなわち、わが国農業の現実を直視せず、対象者である私どもとも対話の無い机上プランに基づき、農水省が本来右に偏せず左に傾かず法に従い公平適正に中庸な執行を行うべき地方行政機関を扇動して、民意を踏みにじった行政施策を強行したところに発端があるのであります。

 私ども控訴人らの心情は、特段の利得を求めたり、あるいは償いを求めたりの欲望にもとづいて提訴したのではありません。私どもは、行政の偏重を憂い中庸の道を求めて行政に接触・要望を重ね努力してきたものの、行政の壁は厚く、事業計画の主人公であるべき農民の立場はことごとく無視されて異端視され空しい想いに経過してきました。然る上は司法の場に中庸の判断をお願いし未来永劫に悔いを残さない展望を希求して熊本地方裁判所の公正な判断を提起しました。しかしながら、熊本地方裁判所の判決は、農林水産大臣に幅広い偏重な裁量権を認め、違法な行為も杜撰な行為も許容する行政こそ天下なりと言わぬばかりの判決でありました。到底私ども農民が求めた右に偏せず左に傾せずの中庸の道からすれば納得のいくものではありませんでした。また、判決後の一般的世論は、行政批判はもとより、この司法判断をも批判するばかりか司法不信の声すら聞こえてくるのであります。

 ここに至り私どもはあくまでも、わが国の三権分立制度の下での司法の役割と民主主義(主権在民)の精神を信じて上級審たる福岡高等裁判所の判断を仰ぐ事を決意し、控訴いたしました。願わくば、私どもの訴えに耳を傾け全身全霊の力を注がれ、公正な判断をいただきたく切望するものです」

 本控訴理由はこうした農民らの思いを踏まえたものであり、以下詳論するところである。