わが船窓に黒々とせる客船の ゆうるりと真夜の海を進めり * 手に持てるシャンパングラス傾けて 人は踊りぬ出航の汽笛に * 伊勢の森枝の重なりに囲まるる 鳥居の奥はぬばたまの闇 * 神官の見守る中に浄財を 投げ入れたりし時の静けさ * ぬばたまの夜の海原に波かしら 白くくたくる船にわがあり * 夕暮れを雨降りそめてオレンジの 色に灯れる街灯の見ゆ * 戦争とかテロとかぼんやり聞きている 我に関わりなしと思ひて * 鉄筋のアパートを崩せしシャベルカー 手を振り上げて夕陽に照らさる * 橙色にともれる窓の灯火を ときめく予感を持ちて眺めつ * 青龍とふ神秘の魚アロワナの うろこの動きなめらかなりき * パンジーの株に白く巻きつける 糸のごとき根は目にも眩しき * 新しき土に植えられしパンジーの 誇らしげなり色とりどりに * 娘が庭の花を生けてゆくごとに 花瓶は春であふれてゆきぬ * 梅の里花見に集ふ人々の 肩に降りくる雪はやさしき * 昨夜夫が放り投げたる酒の瓶 庭石の辺に破片きらめく |