短歌6




わが船窓に黒々とせる客船の
ゆうるりと真夜の海を進めり
*
手に持てるシャンパングラス傾けて
人は踊りぬ出航の汽笛に
*
伊勢の森枝の重なりに囲まるる
鳥居の奥はぬばたまの闇
*
神官の見守る中に浄財を
投げ入れたりし時の静けさ
*
ぬばたまの夜の海原に波かしら
白くくたくる船にわがあり
*
夕暮れを雨降りそめてオレンジの
色に灯れる街灯の見ゆ
*
戦争とかテロとかぼんやり聞きている
我に関わりなしと思ひて
*
鉄筋のアパートを崩せしシャベルカー
手を振り上げて夕陽に照らさる
*
橙色にともれる窓の灯火を
ときめく予感を持ちて眺めつ
*
青龍とふ神秘の魚アロワナの
うろこの動きなめらかなりき
*
パンジーの株に白く巻きつける
糸のごとき根は目にも眩しき
*
新しき土に植えられしパンジーの
誇らしげなり色とりどりに
*
娘が庭の花を生けてゆくごとに
花瓶は春であふれてゆきぬ
*
梅の里花見に集ふ人々の
肩に降りくる雪はやさしき
*
昨夜夫が放り投げたる酒の瓶
庭石の辺に破片きらめく