鎌持つ手だらりと下げてをる我に 蝉やかましく鳴きたつるなり * 「職業は主婦です」とわが答へしに 「無職ですね」と改めて問ふ * 水棲動物になりたるつもり 水風呂にかがみてじっとしてをりにけり * 陽炎の暑さが増してゆくたびに 我が歯車のくるひゆくごと * かなしみが薄青に広がりて居るごとし 恐山なる宇曽利湖の朝 * 雷鳴のとどろく暗き寝室に 幼なの安らけき寝息聞こゆる * 納骨を待つ墓前にて村人らと 僧と献花の順序思案す * この先に希望はなしと思ひつつ 歩める我を守りたまへよ * 車中にてワルキューレの騎行聴きながら プール教室へ今日また急ぐ * 刈田の中にわらを燃やせる人々の 影が炎と共に踊りぬ * 吾子と添ひ眠れぬひと夜のながくして 黒くゆるりとうつりてゆきぬ * 掃きあげし庭の落葉のその中に 蝉が片羽残してゆきぬ * 頭の隅に張る薄氷のひび割れてゆく かそかなる痛みの続く * 今日もまた緑の庭に日の差して 命育む朝は来たりぬ * 翡翠色して流れゆく春の川 我もいづこか漂ひゆかん |