短歌4




鎌持つ手だらりと下げてをる我に
蝉やかましく鳴きたつるなり
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「職業は主婦です」とわが答へしに
「無職ですね」と改めて問ふ
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水棲動物になりたるつもり
水風呂にかがみてじっとしてをりにけり
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陽炎の暑さが増してゆくたびに
我が歯車のくるひゆくごと
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かなしみが薄青に広がりて居るごとし
恐山なる宇曽利湖の朝
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雷鳴のとどろく暗き寝室に
幼なの安らけき寝息聞こゆる
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納骨を待つ墓前にて村人らと
僧と献花の順序思案す
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この先に希望はなしと思ひつつ
歩める我を守りたまへよ
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車中にてワルキューレの騎行聴きながら
プール教室へ今日また急ぐ
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刈田の中にわらを燃やせる人々の
影が炎と共に踊りぬ
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吾子と添ひ眠れぬひと夜のながくして
黒くゆるりとうつりてゆきぬ
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掃きあげし庭の落葉のその中に
蝉が片羽残してゆきぬ
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頭の隅に張る薄氷のひび割れてゆく
かそかなる痛みの続く
*
今日もまた緑の庭に日の差して
命育む朝は来たりぬ
*
翡翠色して流れゆく春の川
我もいづこか漂ひゆかん