短歌3




頭の中の錆びし歯車廻りゆく
梢の雪は滴り落ちぬ
*
今日もまた留守電といふかのひとは
病めるひとなりひとり暮らしの
*
雪どけの汚泥の中にまみれ居て
原初の人を思い出したき
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亡き義母の手づから植えし水仙の
時が来てまた咲きはじめたり
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また春の来たりし庭の日だまりに
去年のまま去年の猫はねて居り
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窓際に置いたコップの麦茶にも
秋近づきて色も深みぬ
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板の間にてえびせんべいを食すときに
風そよと吹き蝉遠く鳴く
*
猿田彦とはいかなる神か知らねども
庭におはせば今日も清めん
*
暗闇にけものか居りてかさこそと
音たてながら薮へ消えたり
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「新しく生きはじめたよ」と吾子の指す
柿の木の枝に萌え出し若葉
*
空にかかる虹の片端つかまへに
行かうと車を山に走らす
*
はっとして振り返り見る大切な
何かを我は置き忘れたり
*
大の字に庭に寝転ぶ吾子と我
今宵は見むよしし座流星群
*
街の灯を目にちから入れじっと見る
これがこの世の最期と思ひ
*
年ごとに株増えゆきて吾が庭は
水仙の白に埋もれてゆく
*
「わたしもうおしまいなのね」病院の
待合室に小さく聞こゆ