頭の中の錆びし歯車廻りゆく 梢の雪は滴り落ちぬ * 今日もまた留守電といふかのひとは 病めるひとなりひとり暮らしの * 雪どけの汚泥の中にまみれ居て 原初の人を思い出したき * 亡き義母の手づから植えし水仙の 時が来てまた咲きはじめたり * また春の来たりし庭の日だまりに 去年のまま去年の猫はねて居り * 窓際に置いたコップの麦茶にも 秋近づきて色も深みぬ * 板の間にてえびせんべいを食すときに 風そよと吹き蝉遠く鳴く * 猿田彦とはいかなる神か知らねども 庭におはせば今日も清めん * 暗闇にけものか居りてかさこそと 音たてながら薮へ消えたり * 「新しく生きはじめたよ」と吾子の指す 柿の木の枝に萌え出し若葉 * 空にかかる虹の片端つかまへに 行かうと車を山に走らす * はっとして振り返り見る大切な 何かを我は置き忘れたり * 大の字に庭に寝転ぶ吾子と我 今宵は見むよしし座流星群 * 街の灯を目にちから入れじっと見る これがこの世の最期と思ひ * 年ごとに株増えゆきて吾が庭は 水仙の白に埋もれてゆく * 「わたしもうおしまいなのね」病院の 待合室に小さく聞こゆ |