短歌2




友禅の絵のやうな月を仰ぎつつ
うす青き道をひとり歩める
*
走り出でし真夜の庭にてさらさらと
裸足に触るる砂利のやさしき
*
暗闇の中より雪のほろほろと
降りきて頬にやわらかく触る
*
おしろいを塗り振袖に装ひて
老いがすまして眼科に待てり
*
三月の少し汗ばむ午後にして
桜の花を窓より探す
*
春雨は我にやさしく降りしきる
桜の花びらともに連れつつ
*
昨日まで泳いでをりし金魚なり
赤き血を流して動かず
*
「かはいい」と手間かけ吾子と育てたる
金魚も今は腐臭をまきて
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ごみ箱に捨てたる金魚を見し夫が
「土葬にせよ」とぽつりと言へり
*
薄闇の道の端に咲く彼岸花
連なりて我を何処へ招く
*
夜半ひとり明かりのくらき湯ぶねにて
やはらかく身はただよひてをり
*
吾子の折る金色の紙はほのかなる
光を暗き天井にうつす
*
病室に見る空雲のかけらもなく
果てなく堕ちてゆくかと思ふ
*
今日もまた危ふいながら生きてをり
見上げる空はぼんやりとして
*
「神様」と呼べども応へあらざれば
暗き廊下にただひとり立つ
*
白椿吾が手に摘まるを待つごとく
静かに形をととのへてをり