病室のカーテン越しにわが名呼ぶ 明るき声は乳癌の人 * 一人部屋に腕をまくりてみつめをり ツベルクリンの赤きふくらみ * 病室の扉の陰より見し吾子の 「まんま」と言ひし声切なくて * レバー切る包丁の先にほとばしる 我と等しき血潮の赤さ * 久し振りに食す素うどんの 「ああうまい」ひとりごちたり一月六日 * 床下のあまたの虫も苦しむか シロアリ駆除の薬にむせつつ * ひたすらにただ叫びたし緑濃き 庭の樹木に囲まれて居て * 木陰くらきブロックの隅にひっそりと かさなりてをり二匹の甲虫 * 降り続く雨音しづか我が家の 庭草の緑つやつやとして * 夜深く隣ベッドに病む人の 酸素ボンベはさざなみの音す |