硝子狩り5
昼下がりの午後。弥生町商店街の一角。
「山田不動産」は小さな店鋪を構えていた。
ガラス張りのドアの向こうでは契約が済んだらしく、
初老の男性が席を立ち、銀縁眼鏡の男が腰を上げて客を見送っていた。
「ありがとうございました」
客が出て行き、男は椅子に座り直し、小さくため息をついた。
「ずいぶん手慣れてきてるじゃない」
奥に座っていた事務の女が声を掛けた。
「おまえほどじゃないさ、ノバク」男は笑った。
「その呼び方はよして」
「オレはいいあだ名だとおもうけど?」
「そんなことよりいつまで吉沢を泳がせているつもりなの?」
「泳がせてるつもりはないんだがね。あのオモチャの使い道がわかりゃ用はないさ」
「オモチャってあのガラス玉のこと?」
「そのガラス玉が曲者なんだよ」
正は図面を黙って見ていたが
「たしかあそこはコンクリートが流してあったよな」と言った。
「地図があったって仕方ねえじゃん。コンクリはがすのか?」
「おもいっきり不審者じゃん。犯罪者になっちまうぜ」
昭彦はガラス玉をつまんでみた。
「これは一体何なんだ?」
「何だって地図を映す機械みたいなもんだろ?」
「本当にそれだけか?」
「何が言いたいのよ」
「正、確かめてみないか?」
「ええ〜!?勘弁してくれよお」
「夜だったら・・・」
「・・・・・だったら?行くのか?あそこへ?」
昭彦は正の顔を見た。
「オレ?オレね?」
「一緒に行ってくれるか?」
正は苦笑した。「お前オレの他に友だちいないの?」
「正なら協力してくれると思ったんだが」
「オレいい奴だもんねえ。そう言われちゃったら断れねえじゃんよ」
「夜なら大丈夫だと思うんだが」昭彦はうつむいていた。
「まあ、いいさ。つきあってやるよ」正は笑った。
昭彦は夜中の公園で正の来るのを待っていた。
早く着いたので、正をしばらく待つことになる。
(正を巻き込んでしまったな)
昭彦は夜空を見上げた。今夜は星の数が多い。
星をこうやって眺めるのは久し振りだった。
正の言う通り昭彦はここ何年か受験勉強に明け暮れていた。
(こうやって空を眺めているとオレなんてちっぽけだな。
ここしばらくそんなこと忘れていたな)
「何浸ってンだよう」正が昭彦の背中を叩いた。
「ああ・・」
「ああじゃねえよ。正様が来てやったんだから挨拶くらいしろよ」
昭彦は笑った。
「それよりアレ持ってきたか?」
昭彦はジーンズのポケットからガラス玉を取り出すと正に見せた。
昭彦と正は工場跡の柵を乗り越えた。
図面を紙に書き写したものをペンライトで照らして
×印の位置を確かめながら二人は歩いていった。
「このへんじゃねえのか」と言ったのは正だった。
正は緊張しているようだった。「何か起こるのか?」
「さあ・・・」
正は昭彦を振り返り顔色を変えた。
「おい・・なんか光ってるぞ。そのお前の腰のへん・・・」
昭彦がガラス玉を入れたポケットの辺りが不思議な色に光っていた。
それはあの火事の時の炎の色だった。
昭彦はそっとガラス玉を取り出した。
何気なくガラス玉を上下左右に動かしてみた。
ある一点でガラス玉が輝きだした。
そのままその場所から動かさないようにしていると、玉は次第に膨張しはじめた。
そして膨張すると同時に輝きも増していった。
二人は目を開けていられなくなり、
周囲は閃光に包まれた。
<つづく>
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